名前さんが黄瀬くんの胸に頭を預け泣いていた。
何を話していたのかは聞こえなかった。
遠くから二人に気づき、頭で理解するより先に足が動いた。
気付けば自分の家に着いていて、いつも通り無表情のまま自分の部屋に戻る。
でも、心の中はぐちゃぐちゃで、なんで二人でいたんだろうとか、黄瀬くんに対する嫉妬とか、色々なことが混ざっておかしくなりそうだった。
「名前さん・・・。」
さっきと同じように、窓を開けて外を眺める。
さっきは名前さんと同じ景色を見ているのかもしれないと感じ、心があたたかくなったのに、今は見れば見るほど悲しくなってくる。
でも、今までにないくらいショックを受けて、黄瀬くんに嫉妬して、名前さんのことがこんなにも好きだったんだと分かった。
・・・今、名前さんが頼っているのは黄瀬くんで、名前さんを支えているのも黄瀬くんなのかもしれない。
でも、これからは・・・?
これからは、僕が名前さんを支えていけばいい。
だから・・・
「次は、僕が名前さんの支えになります。」
もしかしたら、もう手遅れなのかもしれないけど、この気持ちは伝えたい。
「黄瀬くん、僕はやっぱり、負けたくありません・・・!」
◇
翌日の放課後
名前は部活が休みな為、授業が終わり帰りの支度をしていた。
目が腫れ、いかにも何かあったという顔だった為、友達からは何かあったのかと問い詰められたりもしたが、笑顔で対応し深くまで聞かれることはなかった。
その様子を遠くから見ていた黒子は、何度も名前に話しかけるチャンスを窺っていたが結局話しかけることができず、放課後になってしまった。
黒子は一人で帰りの支度をする名前を見て、深呼吸をしてからゆっくり近づいた。
「あの、名前さん!」
「・・・っ!な、何・・・?」
誰もいないと思っていたのか目を大きく開いて後ろを振り向いた。更に振り向いた先にいた人物が黒子だった為にその目はより大きく開いた。
「今日一緒に帰りませんか?」
「あ、うん。」
部活がある日はいつも一緒に帰っていたが、部活がない日名前は友達と一緒に帰ることが多かった為、黒子と帰ることはほとんどなかった。
二人一緒に学校を出て、いつもの帰り道を共に歩く。
いつもと違うのはいまだに会話がないということだけだ。
「あの、名前さん。」
「な、何?」
沈黙を破ったのは黒子だった。黒子は何か決心したような顔で名前を見つめた。
「昨日、何かあったんですか・・・?」
「え、あ、この顔のこと、かな?・・・あはは、酷い顔だよね・・・。あのね、ちょっと、親と喧嘩しちゃっただけなんだ!」
チクンと胸が痛んだ。・・・多分、名前さんは嘘を付いている。
「・・・僕じゃ、頼りになりませんか?」
「え?」
「黄瀬くんは頼るのに、どうして僕には頼ってくれないんですか・・・?」
「涼ちゃん・・・?」
「昨日、見たんです。名前さんと黄瀬くんが公園にいたのを・・・。」
黒子の言葉に名前はなんて言ったらいいのか分からなかった。
確かに黄瀬といたことは真実だが、黒子に弁解をするような間柄ではない。
だが、なんとなく誤解は解かなくてはいけないと思った。
「あのね・・・それは・・・!」
「よう!お前らこんな所で何してんだ?」
「「!?」」
名前が黒子の誤解を解こうと話し出した直後、どこから現れたのか青峰が名前の後ろに立ち二人に声を掛けた。
「あ、おみねくん・・・?」
驚きながらも後ろを振り向けばそこには青峰がいた。
青峰は名前の顔を見るなりプッと吹き出し笑い始めた。
「名前お前、その顔どうしたんだよ!かなりひでぇぞ!!」
「あ、え、えと・・。」
「ところで、青峰くんがなんでこんなところにいるんですか?」
名前が言葉を濁してどうすればいいか迷っていると、黒子が名前に助け舟を出した。
「あ?」
「この時間だと部活ですよね?」
「あー。さぼり。」
「えっ!それはダメだよ!!」
「んなことより、お前ら今帰りか?」
「え、うん。そうだけど・・・。部活、ちゃんと出ないとダメだよ?」
名前がそう告げると、青峰はフっと笑い名前と黒子の肩に腕をまわして押すようにして歩き出した。
「んじゃ、家まで送ってやるよ。」
「え。」
「入りません。名前さんは僕が送るので。」
「いいから行くぞ!」
青峰は二人の言葉を無視して歩き続けた。