俺、黄瀬涼太は名前っちのペットになりました。
・・・名前っち俺のこと好きなのかもしれないと思ってたのに・・・。
でも、いつか必ず名前っちの恋人になってみせるっス!!
「お前、そんなんでいいのかよ。」
「俺も最初はこれでいいのかなって思ったんスけど、頭撫でてくれるし、一緒にいる時間も増えたし、今はこれでいいと思ってるんスよ。」
笠松先輩に名前っちとのことを告げてみれば呆れたような顔で俺のことを見てきた。
「つかなんでそこでペットになるんだよ!!恋人になりたいならそう言えばいいじゃねーか。」
「でも、それでこの関係がなくなったらどうするんスか!!・・・俺、そんなの嫌っスよ。」
俺だって本当はそう言いたかった。ペットじゃなくて、恋人になりたいって。
でも、もし名前っちが俺のことそういう対象で好きじゃなかったら、今の関係もなくなっちゃうかもしれないじゃないっスか。
「お前、馬鹿だな。名前の性格考えてみろよ。アイツは嫌いな奴に自分から近づくような奴じゃないってことぐらい分かってんだろ?」
「それは・・・そうっスけど・・・。」
「いいから行って来い!!言いたいこと伝えて、それで駄目だったらまた最初から頑張りゃいいだけだろ!?そのままじゃ練習にも影響が出る。行って来い。」
「いたっー!!」
いつものように蹴られて床に顔をぶつけた。
駄目でも、最初からやり直せばいい・・っスか。
名前っちの側にいられるならこのままの関係でもいいかもって思ってたけど、もう逃げるのは辞めるっス。
「笠松先輩、俺行ってくるっス!!ありがとうございます!!」
「蹴られて礼言う奴がいるか。さっさと行って来い。」
名前っちが今どこにいるか分からないけど、全速力で走って名前っちを探した。
途中でファンの子に話しかけられたけど全部聞こえないふりしてひたすら探した。
今言わないといけない。今、この気持ちを伝えたい。そればかりが俺の頭を占めていて、でも名前っちはなかなか見つからなくて、焦りで胸がいっぱいになった。
「名前っち・・・!」
体育館も教室も空き部屋も全部探したけど名前っちはいなかった。それでも諦めきれなくて、もう一回名前っちの教室に行ってみればさっきはいなかった名前っちがそこにいた。
「黄瀬?どうしたの・・・?部活は?」
「俺、」
「・・・?」
「俺、名前っちのこと好きなんスよ!!」
委員会で残っていた名前と、そして黄瀬の二人しかいない教室に黄瀬の声が響き渡った。
「だから、俺、名前っちの恋人になりたい。ペットじゃなくて、恋人になりたいんスよ!!」
「・・・っ。」
汗だくになりながらジッと名前を見つめる。
汗の量からして結構な時間自分を探していたのが分かる。
今までみたこともないような真剣な顔をした黄瀬に、不謹慎だけど意地悪したくなった。
でも、それ以上に心が温かくなって、嬉しいって思った。
・・・ああ、多分私・・・。
「涼太、やっぱり私、ペットいらない。」
「え・・・。」
そんな、もう名前っちといられないってことっスか・・・?
俺が名前っちのこと好きって言ったから・・・?
私がそう言うと、黄瀬は泣きそうな顔をして、下を向いた。
・・・あの時からきっと私、黄瀬のこと・・・
あの時は言葉を間違えたけど、次はちゃんと言えるよ。
「その代り、私の恋人になってくれるかな?」
その言葉と共に足音が聞こえた。
バッと顔を上げて、大きく見開いた俺の目に映ったのは、名前っちの顔。視界いっぱいに名前っちだけで満たされていた。
それってどれだけ近い距離にいるのか、なんてことその時の俺にはまったく分からなかった。
キスされたと気づいたのはそれから数秒後のこと。
俺は今日、犬から昇格しました。
end