なんだか最近おかしい。
うるさくて鬱陶しいと思っていた黄瀬が、可愛く見える。
頭撫でたり、散歩したり、まるでペットを飼っているかのようなことばかりしていたから愛着が沸いたのかな?
・・・でも、私と話してる時は尻尾を千切れんばかりに振っているように見えたり、涙目になっている時には頭についている耳が垂れ下がっているように見えるとか・・・。
やっぱり最近の私はおかしい。
「涼太、ちょっと来て。」
「名前っち!名前ーっ!!」
いつもは黄瀬と呼んでいるから、時々名前で呼ぶと本当に嬉しそうな顔して私に近づいてくる。
・・・うん。やっぱり尻尾が見える。
「えいっ。」
「えぇ!?」
なんだかちょっとイラっとして黄瀬のお尻を叩いてみた。
当の黄瀬は驚いてるんだか嬉しいんだか微妙な顔をしている。だが少し痛かったのか目元には涙が浮かんでいた。
・・・犬耳が見える・・・。
「えいっ。」
「いたっ!!」
次は頭を叩く。お尻を叩いた時に前のめりになった姿勢のままだった為、容易く頭に手が届き、思ったよりも強く叩いてしまった。
「名前っち、酷いっスよ!?俺、なんかしたっスか!?」
私に這うように抱き着いてきた黄瀬はまるで飼い主のご機嫌を取ろうとする犬のようで、いままで感じたことのないような感情が胸に広がった。
「涼太、ごめん。」
「・・・っ!」
私の目線に合わせる黄瀬の顔を抱き寄せ頭にそっと口付ける。
よく、分からないんだ。自分の感情がなんなのか。
苛めたいけど、優しくしたい。
ペットを飼ったらこんな感情になるのかな?可愛いものほど苛めたいってよく聞くし。
黄瀬の頭から顔を離し、徐々に下に下げていく。
黄瀬と視線が合う位置にくると、そのままコツンと、おでこをあててみる。
「涼太の顔、こんなに近くで見るの初めて。」
「・・・っ!名前っち、こ、こんな近くで・・・しゃ、喋んないでほしいっス・・・!」
嬉しいけど、恥ずかしすぎて死にそうっス・・・!
名前っち本当にどうしたんスか!?
「あ、睫毛凄く長い。」
いままで知らなかった黄瀬を発見できたような感じがして、なんだか凄く嬉しくなった。
暫く黄瀬の長い睫毛を見て、瞼に口付ける。
「・・・っ名前っち・・・?」
・・・うん、なんか分かったかも。
私、多分黄瀬のこと・・・。
「涼太。」
両方の瞼に口付けて、少し距離を開ける。
そして、黄瀬と視線を交らせて、徐々に近づいていく。
「名前っち・・・?」
これは、まさか、次は、く、唇っスか・・・!?
目の前にいる名前っちはどんどん近づいてくるし、俺の心臓はもう爆発寸前だし、どうすればいいんスか!?
悩んでいる間に名前との距離は既に残り数センチ。
「目、閉じて。」
「・・・っ!」
残り1センチで名前が言葉を発し、黄瀬はとっさに目を閉じた。
かぷ
「・・・かぷ?」
「キスされると思った?」
「・・・って何鼻噛んでるんスか!?」
キスされると思って身構えていた黄瀬だったか、数秒経っても期待していた感触を感じることができず目を開ける。
そこには黄瀬の鼻を小さく噛んでいる名前がいた。
「・・・折角いい雰囲気だったのに・・・!」
名前っちも俺のこと好きなのかと思って自惚れていたのに・・・。
「涼太、私、涼太のこと・・・」
「・・・!」
名前の言葉を聞いて素早く名前に向き直る。
やっぱり・・・名前っちも俺のこと・・・!
「飼いたいみたい。」
「え。」