「新発売の、ビックビビンバパン!!」
「やらねぇぞ」
昼休み。誠凛高校のバスケットボール部の部員は屋上に集まり、皆で昼ご飯を食べていた。
マネージャーである名前は購買でパンを買い、他の部員よりも遅く屋上に着いた。
屋上に着いた瞬間目に入ったものは自分が買おうとしたが、売り切れてしまい買うことができなかったパンを食べている火神の姿だった。
「名前さん遅かっ」
「火神くん!お願い。それちょっと頂戴!!」
「ちょ、名前さ」
「ふざけんな!これ買うの苦労したんだからな!」
「名前さ」
「おーねーがーい!!私の目の前で売り切れちゃったんだよ!?一口くらいいいじゃん!」
「・・・」
「やらん」
「そんなに大きいのに!?」
「だめだ」
黒子が名前に声を掛けようとするも、二人に遮られてしまいなかなか声を掛けられずにいた。二入はいつも通り無表情であるためか黒子の後ろに見える黒いオーラに、まったく気づいていない。
「おーい。お前ら。黒子がやべぇぞー」
「ありゃーこれは聞こえてなさそうだね」
「・・・」
日向や伊月は一応声は掛けるが、無理と分かり少しずつ三人から離れていく。それにともない水戸部もゆっくり退散する。
「これだけでも足りないのにお前にやったら減るじゃねーか」
「一口だけだもん」
「名前さん。そんな火神くんの食べかけのパンよりこっちの方が美味しいですよ。たとえ新商品ですぐに売り切れるような人気のパンでも火神くんの食べかけなんて絶対に美味しくないです。」
「ちょ、酷おおぉぉ!!」
やっと名前に話しかけることができた黒子は火神と名前の間に立ち名前の前に自分が食べていたパンを差し出した。
「それはこないだ食べたからいいや。」
「・・・」
バッサリと断られ差し出したままの恰好で固まる黒子。名前はそれを気にせず黒子をよけて火神の前に行った。
「黒子・・・。ありゃーショックだな」
「黒子固まってるし・・・。」
「・・・」
自分たちに被害が及ばない位置で待機する日向、伊月、水戸部。
「黒子くんも嫉妬するのね!おもしろくなってきたじゃない!」
「監督、楽しんでるし・・・」
その横で同じく待機するリコと小金井。
「頼んでもくれないなら、強行突破!」
「っあ!おい!」
「・・・!」
名前は固まっている黒子の横を通り過ぎ火神の元に向かうと、火神が食べているパンにかぶりついた。
「・・・!やっぱり美味しいー!!」
「お前!何食ってんだよ!それにこれじゃ、か、か間接き」
「か・が・み・く・ん?」
名前に食べれたことに気づいた火神は顔を赤らめ慌てていたが、黒子は火神の言葉を遮りゆっくりと火神の名前を呼んだ。
「黒子・・・!違う!俺は何もしてねぇ!!」
ってかお前さっきまで固まってたのに、いつの間に復活したんだよ!!
「人の彼女に何餌付けしてるんですか。」
「餌付け!?」
「火神くん。覚悟はいいですか。」
「いや、ちょ、待て黒子!!」
黒子が火神と話している間名前はというと、黒子に油断している火神のパンをもう一口ぐらい食べれるか考えていた。
なかなか食べれないし、もう一口くらいいいかな・・・。
「・・・て、あれ?」
名前がそう考えていると火神が食べていたはずのパンが名前の元に飛んできた。
名前は自分の手元に飛んできたパンを見て数秒、ニコっと微笑を浮かべた。
「なんだ。火神くん良いとこあるじゃん!じゃあもう一口!」
「だめです。」
「・・・あ!テツくん返してよ!」
火神と話していたはずの黒子がいつの間にか名前の目の前にいた。
そして、名前が食べようとしていたパンを取り、火神の方に放り投げる。
「あぁ!あと一口食べたかったのに・・・。」
「だめです。火神くんの菌に感染します。」
「えぇ!?」
「黒子ひでぇぇぇ!!」
黒子に投げられたパンを起用にキャッチし一安心した火神だったが、黒子の言葉にパンを落としそうになった。
「それに、嫌なんです。名前さんが火神くんのパンを食べるのが。食べるなら僕のパンを食べてください。」
「でも、新発売のビビンバパンが食べたかったの・・・。」
「それでも嫌です。これが嫉妬だって分かってますし、見苦しいってことも分かってます。でも、嫌なんです。」
「・・・・ん?」
「でも、嫉妬するってことは、それだけ名前さんのことが好きってことなんです!」
「な、な・・・!」
「ごめんなさい。でも僕こう見えても意外と嫉妬深いんです。」
「あ、あの」
「だから、これ僕のパンです。今日はこれで我慢してください。明日には必ずビックビビンバパンを手に入れて見せます!」
黒子からの恥ずかしい発言に名前は顔を赤らめながらも黒子に差し出されたパンを受け取った。
「ごめんね、ありがとう。でも恥ずかしいからそれ以上喋らないで・・・。」
「名前さんが好きなんです。だから喋らずにはいられません!」
「ちょっと黙ろう」
「じゃ、あっちで一緒に食べましょう」
「ちょっ」
名前は黒子に手を引かれ皆とは少し離れた場所に行った。その場に名前を座らせると黒子は後ろから名前を抱きしめるようにして座った。
「て、テツくん!?」
「名前は僕のです。」
「えぇ!?」
ぎゅっと黒子に抱きしめられ赤面しながら固まる名前。もう既にパンを食べる気力すら残っていない。
「あー。俺らはもう教室戻るか。」
「そうだねー。」
「・・・(こく)」
他の部員達は名前と黒子を遠目に見て教室に戻って行った。だが火神だけはいまだにパンを食べ続けていた。
「ビックビビンバパンうめぇー」
「火神くん。空気読んでください。」
「(・・・恥ずかしい!!)」
end