「「「かんぱーい!!」」」
夏休み最終日、過酷な練習や合宿も終わり明日から学校が始まる。
そこで監督のリコは「夏休みお疲れパーティー」を開くと言い出し、一人暮らしをしている火神の家に部員全員が集まった。
それぞれが適当に食べたいものを持ち寄り、机の上には野菜やら肉やらジュースやら、更にはお酒までもが置かれていた。
「おいおい!酒持ってきた奴誰だよ。未成年なのにどうやって買ったんだよ!」
「まぁまぁ。いいじゃない別に。今日は思いっきり羽目を外しましょう!!」
リコはそう言いながら部員全員にお酒を渡していく。
「俺は酒より肉食いたいんすけど・・。ってか俺の家なんだからぜってー汚すなよ!?俺はまだ納得してねぇからな!?なんで俺の家なんだよ!!」
「・・・火神くん。皆聞いてないみたいだよ?はい、お肉。まだ準備できてないから見てるだけね」
「見てるだけ!?」
男子バスケット部のマネージャーである名前は、皆が適当に持ち寄った食べ物の中でも肉が多かった為、焼き肉の準備をしていた。
焼き肉の準備をし、野菜を切り終え、肉が焼ける温度になるまで待つだけとなった。
もちろんその間火神は生肉を眺めているだけでお預け状態である。
「よし、じゃあ準備も整ったし、乾杯しますか!」
「「「かんぱーい!!」」」
リコの掛け声によって開始された「夏休みお疲れパーティー」。
始まるとともに火神は肉を焼き、他の部員たちは渡されたお酒を飲んだりと自由に騒いでいた。
「名前さん。お肉です。どうぞ」
「テツくんありがとう!でも、テツくんちゃんと食べてる?」
「はい。食べてます。火神くんが焼いているお肉を奪っ・・もらって食べてるので安心してください。あ、これは僕が焼いたやつなので安心して食べてください」
「・・・そっか。(火神くん気づいてないみたいだし、まぁいっか)」
名前は黒子の横に座り、黒子から貰った肉を食べる。
しかし、食べては盛られ食べては盛られでまったく減らない。
「テツくん!盛りすぎだよ!」
「あ、ごめんなさい。つい。名前さんにたくさん食べてもらいたくて・・・」
思ったよりも落ち込んでしまった黒子に内心焦ったが、こんな些細なことでそんなにも落ち込んでくれる黒子を可愛いと思ってしまった。
「ああー!!!それ俺の肉!・・ですよ!日向先輩」
「だアホ!!さっきから自分だけ食いやがって。普通先輩に譲るもんだろ!殺すぞ」
「なんでクラッチタイム!?」
「ごめん、忘れてた。日向は酒を飲むとクラッチタイムになる」
「忘れてた!?そんな大事なこと何忘れてんスか!?伊月先輩!」
黒子と名前の横で火神と日向が肉の取り合いをしていたが、二人は特に気にすることなく野菜を摘まんだりしていた。
「日向先輩、お酒飲むとクラッチタイムになるんだね。覚えとかなくちゃ」
「そうですね。あ、名前さん。もやしうまく焼けましたよ」
「あ!ホントだ。よしよし、良かったね」
「・・・名前さん。子供扱いしないでください」
「火神!お前は先輩を敬うということができていない!!敬語ぐらいちゃんと使え!!」
「クラッチタイム長い!・・・ですよ」
「だアホ!ちげーー!!」
「ごめん、忘れてた。日向は酒飲んだ時のクラッチタイムは異常に長い」
「だから、なんでそんな大事なこと忘れてんスか!?伊月先輩!!」
「名前!ちょっとこっち来て!」
黒子と名前がもやしの出来栄えについて語っていると、顔を赤くしたリコが名前を呼び寄せた。
「あ、はーい!今行きます!・・・テツくん、ちょっとリコ先輩のとこ行ってくるね」
「はい。早く戻ってきてくださいね」
名前がリコの方に行くと、リコは名前を引き寄せ小声で話しだした。
「なんですか?リコ先輩」
「最近黒子くんとどうなの?」
「え、ここでその話するんですか!?普通にいつも通りですよ!」
「そーいうことじゃなくて!あんたたち一応付き合ってるんでしょ!?なんか進展ないわけ!?」
「一応じゃなくてちゃんと付き合ってますよ!・・・進展ですか・・・あ、こないだ手繋ぎましたよ!」
「・・・そう(やっぱりここは私がなんとかするしかないわね!)」
とはいったものの、どうすれば・・・。
そう考えながら周りを見るとお酒が目に入った。
黒子の方を見るとリコが渡したお酒を飲んでいる様子はなく、未だにもやしを焼いている。
そうか、その手があった!一か八かだけど、試してみる価値はあるわよね!
「名前、あんたたちお酒飲んでないわよね?」
「あ、はい。折角もらったのに、ごめんなさい」
「いいわよ!そんなの!じゃあ、喉乾いてるでしょ?はい、これあげる!水だから安心して。で、こっちが黒子くんの分ね(テキーラだけどね)」
「あ、ありがとうございます!」
名前と黒子の飲み物を名前に渡すと、リコは名前の背中を押して黒子の方に戻るように促した。
リコ先輩のことだから何か企んでるかと思ったけど、ちゃんと水っぽいし、大丈夫そうだね!
「テツくんお待たせ!はい、これお水」
「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんです」
黒子は名前からコップを受け取ると、余程喉が渇いていたのかコップに入っていたものを一気に飲み干した。
「(よし!うまくいった!!)」
少し離れた場所で見ていたリコは小さくガッツポーズをしてこれからの展開に胸を躍らせた。
「・・・・」
「?・・・テツくん、どうかした?」
コップの中身を全て飲み干すと、黒子はまるで固まってしまったかのように無表情のまままったく動かなくなった。そして、ゆっくりコップを机に置き、名前の方に顔を向ける。
「・・・名前さん。ちょっとこっち来てください」
「え?・・・うん」
黒子との距離がそこまであったわけではないが、黒子に手招きをされより黒子に近づいた。そして、黒子の横にちょこんと座ると、黒子の顔が若干赤みを帯びていることに気が付いた。
「あれ?テツくん、なんか顔・・・っわ!」
名前が隣に座ると、待ってましたと言わんばかりの勢いで名前の腰に手を回しグイッと自分に引き寄せた。
「て、て、テツくん!?」
いつもはこんなことしないのに・・・!な、なんで!?
「名前さん・・・。いい匂い」
「・・・っな!?」
黒子は腰を引き寄せ、ピッタリ密着するとそのまま名前を抱きしめ名前の首元に顔をあてていた。
「・・・!(黒子くんナイス!!)」
「監督、何興奮して・・・てえ!?」
リコが名前達の方を見ながら机をバンバン叩いていると、小金井がリコの異常に気づき声を掛けた。そして、リコが見ている方をたどって見るとそこには普段まったく甘い雰囲気のない名前と黒子が抱き合っている姿が目に入った。
「なななな!み、水戸部ー!!あれ、あれ!」
「・・・!」
慌てて水戸部にもそれを知らせると、声には出さないが目を大きく開け顔を真っ赤にする水戸部。
「・・・て、テツくん。ホントにどうしたの!?みんないるし、ね、離れて?」
「・・・どうしてですか?名前さんは僕のこと好きじゃないんですか?」
「えぇ!?・・・す、す、好きだよ!でもそれとこれとは・・!」
「なら、いいじゃないですか。ずっと我慢してたんですよ。でも、今日はなんだか我慢できません。」
「・・・っ!」
抱きしめられたまま赤みを帯びた顔の黒子に見つめられ、言葉を失う。
今までこうやって抱きしめられたことがなかったからどうすればいいのか分からないし、テツくん意外に力が強い・・・!
誰かに助けを求めようと周りに視線を向けるが、リコ先輩は机をバンバン叩いてるし、小金井先輩も水戸部先輩も固まってるし、伊月先輩や日向先輩や火神くんはポカーンとした顔でこっちを見ている。
・・・頼れそうな人がいない!
名前が頭の中でどうすれば黒子が離れてくれるか考えていると、黒子は周囲に向けていた名前の顔を自分の方に向け、ジッと見つめた。
「・・・テツくん?」
だが黒子の顔が見えたのは一瞬で次の瞬間には天井が見えていた。
「・・・あ、れ?」
天井を数秒眺めていると、次は黒子の顔が名前を見つめ徐々に近づいてくる。
「え?え?」
・・・お、押し倒された!?
頭では押し倒されたことを理解できたが、徐々に近づいてくる黒子に名前はどうすればいいのか分からなくなり、黒子の顔があと数センチというところでとっさに目を閉じた。
・・・
・・・・あれ?
ドサッ
目を閉じてから何も起こらず、今どういう状況なのか目を開けようとすると、いきなり名前の体に何かが落ちてきた。
「・・・テツくん」
ゆっくり目を開けるとそこには力尽きたのか名前の上でぐっすり眠っている黒子がいた。
「えぇー!!なんでそこで寝るかな!?」
「リコ先輩!?」
名前が黒子を見て一安心していると、いつの間にかリコが横で黒子の頭を叩いていた。
「ちょ、リコ先輩!起きちゃいますよ!?」
未だに叩き続けるリコ止めて、黒子がまだ寝ていることを確認する。
「・・・まだ寝てる。良かった」
「まぁ、良いとこ寝たのは許せないけど、なかなか良かったわよ!」
「リコ先輩酷いですよ!見てるだけで助けてくれないなんて・・!」
「当たり前じゃない。私が仕組んだんだから」
「・・・え」
「黒子くんが飲んだのはお酒よ!お・さ・け!」
語尾にハートマークが付きそうな勢いでそう言われ、名前はポカーンとした顔でリコを見つめた。
・・・騙された!!
「リコ先輩何してるんですか!!」
「いいじゃない!楽しかったし。でも、黒子くんはお酒を飲むと肉食系になるのね。・・・ふふ。いい情報ゲットー!」
リコ先輩のあの笑顔・・・。絶対何か企んでる・・・!
「もうやめてくださいよ!」
・・・テツくんにはお酒は飲まさないようにしよう。
そう心に決めた名前だった。
end