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「名前、先に行くぞ」

「うん。私はもうちょっとここにいる」


赤司を筆頭に去っていく5人。
5人が見えなくなるのを確認すると名前は黄瀬の前に座った。


「・・・涼ちゃん、聞いてる?」


黄、瀬、涼、太、そう口に出して、目の前にある墓石に書かれた文字を指でなぞった。


「まだ、実感が沸かないんだ。・・・でも、もう本当に、会えないんだよね・・?」


返事を待っても返ってくることはない。
涼ちゃんとの会話にこんなに沈黙が続いたこと、あったかな・・?


「涼ちゃんが、怖いからってっ・・約束したのに・・。なのに、涼ちゃんが破ってどうするの・・っ」


手が震えて涙が出る。
下唇を噛んで涙を止めようと思っても、涙は止まってくれない。


その墓石すら見ているのが辛くなり、その場から立ち上がると行く宛もなく走り出した。





走って走って、それで疲れて気づけば海にいた。

冬に近づいている11月。
海に人気はなく、ただ一人、自分だけが立っていた。


このまま真っ直ぐ歩いて行けば、涼ちゃんに会えるのかな。

ボーっとそんなことを考えながらゆっくり歩いて行く。


靴の中に水が入り込んで足が重くなる。
それでも前に進むとだんだんと腰辺りまで濡れてくる。

寒さに震えが止まらない。
それでも、歩き続けた。


「いいよね。だって、涼ちゃんに会えるんだよ?」

誰に問う訳でもなくそう呟く。


一度止まって後ろを振り返る。
今ならまだ戻れる。何もなかったかのようにして、いつも通りの生活を送って、それで、・・それで・・。

でも、そこに涼ちゃんはいない。

戻ったって涼ちゃんがいないなら・・。


そう思って前を向こうとした時、いきなりの強い波に押されそのまま岸の方まで押し返される。


「・・・涼ちゃん?」


その波は自分を巻き込んで引き返すことなく、ゆっくりと戻っていく。
自然の原理ではありえないその光景に目を大きく開いて驚きを露わにする。


それはまるで、私に死んじゃだめだって、そう言っているようで・・。


ああ、そうだ。そうだよ。死んだらダメだ。
だって、涼ちゃんは私を救ってくれたんだもんね。

涼ちゃんは、私に生きて欲しいから、だから救ってくれたんだ。


「涼ちゃん、ありがとう。私、生きるから。頑張って生きるから。涼ちゃんの分も、たくさんたくさん生きるから。・・・だから、何十年か後にまた、会おうね。その時まで、ちゃんと待っててね・・?」


そう告げてから涙を流しながらニコッと笑った。


「涼ちゃん、ありがとう」

end
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