「名前ちゃんおかえりー」
「桃ちゃん。データ取り終ったの?」
「うん!後はまとめるだけなんだー」
「そっか。じゃあ私はボトル置いてくるね」
ニッコリと微笑んで名前が桃井の元を去ろうとした時、後ろからジャージを引っ張られ名前ちゃん!と叫ばれる。
「どうしたのその怪我!?何かあったの!?」
「え、あ、これさっき・・」
「怪我!?名前っちが!?」
「え、あ・・」
桃井の大きな声に真っ先に反応したのは黄瀬だった。
すぐさま名前の元に駆けつけると、言葉を遮って名前の手を掴む。
「あ!ボトル・・」
「うぁぁぁ!名前っちなんでこんな血がぁぁ!!」
「ちょ、うるさっ・・」
手を掴まれたことによって落ちてしまったボトルと黄瀬の大きな声に思わず非難の声をあげてる。
黄瀬の言葉にぞろぞろと他の部員も集まり名前の手を覗きこむ。
「うわー痛そう」
「名前さん大丈夫ですか?」
「名前っち誰が!?誰がこんなことしたんスか!?」
「あ、いやこれは・・」
黄瀬のあまりの形相に、本当のことを言うのを躊躇してしまう。
野球部のボールが飛んできた、なんて言ったら野球部に乱入しそうだしなぁ・・。
「それよりも手当だ。黄瀬お前は黙れ」
「ああ!赤司っち・・!」
怪我をしていない方の手を掴んでベンチに座らせる。
そして、そのまま手当てをしようと救急箱に手を伸ばすと、その手は黄瀬によって阻まれた。
「名前っちの手当は俺がやるんで大丈夫っス。」
「・・・それなら早くやってやれ」
そう言って赤司は二人から離れ部活に戻った。
黄瀬は素早く救急箱を手にすると名前の怪我の手当てをし始める。
「名前っち・・、その、俺ごめんなさいっス・・。」
名前の怪我の手当てをしながら悲しそうな顔でそう呟く。
「え?」
「名前っちが怪我してるの見て、ついカッとなっちゃって・・。怪我の手当てもしないで、あんな取り乱してホント俺情けないっス」
「そんなことないよ。心配してくれたんだよね?ありがとう。嬉しいよ?」
小さく震える黄瀬の手に自分の手を重ねて安心させる。
「・・・でも、俺・・!」
「でもはなし。大丈夫だから、ね?」
ニッコリ微笑みながら言う名前に黄瀬は黙る。
だが、真っ先にしなくてはならないことを赤司に先を越されたことは、黄瀬の中ではどうしても許せないことだった。
「・・・名前っち、俺のこと呆れたりしないんスか・・?」
「こんな小さいことで?・・・それに、ああやって小さい事でも焦ってたくさん心配してくれるのが涼ちゃんでしょ?私はそんな涼ちゃんが好きなんだから、呆れるなんてそんなことないよ」
こんな小さなことでも不安になって悲しそうな顔をする黄瀬に名前は小さく笑う。
「良かった・・。でも、俺にとっては小さなことじゃないんスよ!」
「あはは。ごめん、次からは気を付ける」
いまだに不安そうな顔をする黄瀬を安心させるように、黄瀬の頭を軽く撫で微笑んだ。