「青峰っちー!1on1しないっスかー!?」
「やだ」
「えー!?なんでっスか!?」
「めんどくせぇ」
「えー!?」
なんでなんでと青峰の周りをグルグ周りながら行く手を阻む。
1on1するまで通さないっスよー!
「だー!!邪魔だ!どけ!」
「1on1!青峰っち1on1!」
「うるせぇ!・・・おい名前!コイツ黙らせろ!」
「・・・ん?」
意地でも通さないという様子の黄瀬に青峰は名前に助けを求めることにした。
だが、楽しそうに青峰の周りを周っている黄瀬を見てあらあらと言ってように微笑む。
「いや笑ってないでコイツどうにかしてくれよ!」
「涼ちゃん青峰くんのこと好きだからねー。相手してあげてよ」
「おいっ今日何回コイツと1on1したか分かってんのか!?もう既に3回はやってんだぞ!?お前が持ってるスコア板よく見てみろ!!」
青峰の必死の形相にも特に臆することなくあははと笑う。
結局なんだかんだ言って好きな人には弱いもの。名前も例外ではなかった。
「ほらっ!名前っちもああ言ってるし!青峰っち1on1!!」
「あーもうわーったよ!やりゃいんだろやりゃ」
「やったー!名前っち、今度こそ勝ってくるっスよー!」
「うん。頑張って」
よーし、やるぞー!と意気込んでコートに入る。
そんな黄瀬を見て名前は微笑みながらスコア板に書き込んでいった。
◇
「・・・うう。また負けた・・。」
「そんな落ち込まないで?1回目の時より動きも早くなってるし、少しずつだけど青峰くんに追いついていってるよ」
「ホントっスか!?」
「ホントホント。だからほら、また挑戦しといで?」
「!俺、もう一回行ってくるっス!!」
そう言ってまた青峰の所に行き、うるせぇと言われながらも何回も強請っていた。
「おい!!名前!コイツどうにかしろ!!」
遠くから聞こえるその声に答えることはせず、ニッコリと笑う。
涼ちゃん楽しそうだし、青峰くんもなんだかんだ言って嬉しいくせに。
もうほっといても大丈夫かな?
そう思い名前は他の仕事へと移って行った。
◇
「桃ちゃん、私ボトル洗ってくるね」
「はーい!ありがとう名前ちゃん」
データを取っている桃井に一声掛け、ボトルを抱えて体育館から出る。
外に出れば強い日差しの中大きな声で練習をする野球部の声が聞こえた。
皆頑張ってるなー。
体育館にいるとまるで自分たちだけが頑張っているような錯覚に落ちることがあったが、こうやって外に出ると沢山の部活があって、皆頑張っているという事を認識させられる。
「・・・私も、頑張ろう」
少しでも役に立てるように、頑張ろう。
私は桃ちゃんみたいにデータを分析したり、凄い能力があるわけでもない。だから、時々不安になる。
私はここにいてもいいのかな、って。
溜息をついて洗い終わたボトルを掻き集める。
そして、持ち上げようとした瞬間名前の手元に野球ボールが勢いよく飛んできた。
「・・・っ!?」
考え事をしていたこともあり避けるのが遅くなってしまった。
ボールは名前の手を掠って地面に転がっていく。
そんなにひどい怪我ではなかったが、名前の手からはうっすらと血が滲んでいた。
「すいません!こっちにボール飛んできませんでしたか?」
「あ、そこに・・」
野球部員が走ってこっちにやってくる。
だが名前が怪我をしていることに気づかなかったのか、ボールを拾ってそのまま校庭に戻ってしまった。
「・・・そんなに酷くないし、いっか」
少し寂しくも感じたがその手のままボトルを抱え体育館に戻って行った。