特に思い出があるという訳ではないけれどなんとなくここを選んだ。
歩みを進めるたびに波の音が大きくなって、気付けば靴に水が滲みるまで近づいていた。
「やっぱり、冷たいっスね」
冬に近づいている11月。
海に人気はなく、ただ一人、自分だけが立っていた。
靴の中に水が滲みこみ、足が重くなる。
それでも前に進むのを止めず歩き続けた。
――もしも、あの時に戻れたら俺はこんなにも後悔をすることはなかったかな
水が腰辺りにきても、寒くて凍りそうになる足を必死に動かして前に進む。
――もしも、あの時に戻れたら俺は彼女を救うことができたかな
「・・・あぁ、多分、次が最後の言葉っスね」
ずっとずっと歩き続けてやっと、水が肩まで届いた。
時々口の中に水が入って、しょっぱくてむせ返る。
「でも、やっと会えるんスね」
一度止まって後ろを振り返る。
今ならまだ戻れる。何もなかったかのようにして、いつも通りの生活を送って、バスケやったり、それでそれで・・・。
あぁ、でもダメだ。一番大切なものがないじゃないか。
振り返って、真っ直ぐ前にある水平線を見て微笑む。
俺が進む先はこっちしかない。
「――もしも、あの時に戻れたら俺は未来を変えられますか?」