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国語の時間に「夢」をテーマに作文を書くことになった。特に夢もなにもないからこのテーマには相当迷った。私の前の席の慈郎は珍しく起きていて、さらに珍しいことにすらすらとシャーペンが動いているのが見てとれる。慈郎はあんなにすらすら書けるくらいの夢があるのか。いいなあ。私の作文用紙はまだ題名と名前しか書かれていない。書き出せもしない。周りを見渡してみた。ほとんどみんなの手はせかせか動いている。シャーペンを持ったまま動いていないのは私くらいしかいない。

「できた!」

は、はや!笑顔で作文用紙を掲げた慈郎に先生まで驚いていた。普段寝てるかテニスしてるかしかない慈郎が、慈郎が作文…

「あっれ?全然かいてねーじゃん」
「だって夢とかないんだもん」
「えー?それって悲Cー」
「そーかなー」

夢のない中学生って確かに何か寂しい。それはわかる。でもまだやりたいこともないしいつか見つかるんじゃないかって思うし…うーん、まあいいか。
ふと、慈郎の作文が気になった。あんなに早く書けてしまうのだから思い描く夢というのが頭のなかにあるんだろう。

「慈郎は何かいたの?」
「俺はねー家のクリーニング屋継いでークリーニング屋やりながらテニスやる!」
「へえー慈郎らしいね」
「んで、将来俺の子供にもテニスさせんの!」
「いいね、楽しそう」

私がそう言った途端に慈郎の笑い声がぴたっと止まり、真顔になる。一体どうしたんだろうと思っていると、なぜか慈郎の顔がどんどんこちらに近づいてくる。な、なに、一体…!

「夢ないんでしょ」
「え、あ、今のところは…」
「なら」
「え?」


「君の頭のなかの未来に俺がいないならむりやりにでも俺の存在を埋め込んであげるね」


耳元で囁いた声はいつもの慈郎とは違う少し低い声でどくんと心臓が重くなる。いつもの慈郎とは正反対の声と言葉だった。
ぼーっと言葉の意味を考えていたその瞬間慈郎の顔が突然目の前に現れた。周りがざわざわうるさいと思って見渡すとみんなこっちを見ている。たまたま目に入った宍戸はなんかあちゃーみたいな表情してて

「ちゅーしちゃった、はっずかCー!」
「え、えっ、い、いま」
「ね、想像できた?俺との未来!」

眩しいくらいの笑顔をこちらに向けた慈郎。ばっと下を向いて前が向けない。(恥ずかしさでまともに見られたもんじゃない…!)
慈郎の顔は見られなくても少しだけ、彼との未来は見えたような気がした。





埋め込まれる未来
(080505)
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