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「あ」
「どしたの」
「コンビニいこ」
「お金ない」
「はーやーく」


今日はやけに風が冷たくて強い。だからはやく帰りたいのになーコンビニなんて用ないのになーというわたしの呟きを何事もなかったように無視する仁王はぐいぐいわたしのブレザーの肘を引っ張る。いつも同じところを引くのでわたしのブレザーにはそこだけ軽いシワがついてしまった。アイロンとかかければ普通に直るんだろうけど直さないのはなんとなく仁王の存在が残ってるかんじが好きだから。とか恥ずかしいな、やっぱごめんうそ

自動ドアをくぐるとやたら店員さんが張り切った人らしくて元気よくいらっしゃいませーと叫ばれる。あの、なんていうんだっけ…名前忘れたけどびっくりマーク4つくらいつくくらい。いつもすんごい気怠いくせに今日は一体なにがあったんだろう。…べつにいいか…いやそれよりあのマークなんていうんだっけな


「ねえにおくん」
「何じゃ」
「あのさ、びっくりマークの正式な名前ってなんだっけ」
「えっびっくりマークに名前とかあるんか」
「あるある」
「ふーん」


仁王はコンビニのお菓子コーナーに座り込んでだらだらと物色を続ける。自分には興味のないことにはとことん関心が薄いのでこんなことは日常茶飯事だ。下からスカートの端を引っ張られた。隣に座れという合図である。しかしこのコンビニの大して広くもない通路にふたりして座るのってとんだ迷惑行為だと思う。「わたし買わないよ」「一人でみんの寂しい」普段他人と一緒にいたがる性質でもないくせに、こういう意味わかんないとこで寂しがるから仁王ってめんどくさいなあ。めんどくさいけどなんかかわいいなあ。…えっ待ってすごくナチュラルだったけど…なに今の心境、あまりにも自然でこわすぎる。我ながらちょっとひいた。ひくわ。


「おーいー」
「え」
「いつまでぼーっとしとるんよ」
「ああごめん……ってなんでアイスを買ったの」
「食べたくなった」


仁王の下げるコンビニ袋の中にはひんやりといかにも冷たそうなアイスが入っていた。さっきお菓子売り場で悩んでいたのは一体何だったのか。今に始まったことではないにしても仁王の行動がまるで理解できない。いつのまにか繋がれていた手に引かれて外に出ると、先程と同じく冷たい風が容赦なく体に吹き付けてきた。


「あ 無理 さっむ」
「コンビニに戻ろうとしないでください」
「なあもっとひっついて、さむい」
「えっ…そんなバカップルみたいなことしたくない」
「心配せんでもすでにバカップルじゃろ俺ら」
「いやいやいやいや」
「照れんなってー」
「ちがうよバカ」


仁王にぐいっと繋いでいた手を引かれて、腕がくっつく。触れ合う部分が熱を帯び始めて、体温の低い仁王も一応暖かさは存在しているという当たり前のことを思い知る。しかしコンビニ袋からアイスを取り出し食べ始めたから視覚的にはものすごい寒いことになっている。しかも本人は寒さでちょっと鳥肌も立っていた。なんでそこまでして食べるの。仁王そんな好きじゃないじゃんジャイアントコーンなんて


「食う?」
「ええー…いらないよいるわけがないよ」
「予想以上に寒くなった」
「想定できたよね絶対」
「いらんの?」
「いらねーよ」
「遠慮せんでええよ」
「勘違いだよそれ」
「照れんなってー」
「もうそれいいから」


なんとも締まりのない会話をだらだら続けながら歩いて、わたしの家の前まで到着する。仁王はジャイアントコーンを食べきっていたけど明らかに体が冷えたようで唇の色が不健康に変色していた。わたしは持っていた携帯カイロを仁王に渡したあと(あまりにも寒そう)適当にまた明日ねとか言いながら寒いからはやく家に入ろうとした。したのだけど。
なぜか仁王に抱きすくめられていて、なぜかキスまでされていた。すんごい冷たい体と唇が触れて背筋がぞくりとする。寒さもあるけどそれとはちょっと違う感覚もする。ああやだな、仁王って、認めたくないんだけど、無駄にキスがうまいんだよなあ


「なあ」
「…なに」
「今から俺んち来ん?」
「え、いまから?」
「あっためてほしいな〜」
「(そんなベタな)」


壁に押し付けられて今度は食べるみたいなキスをされる。背中はコンクリートで冷たくて、わたしの口の中にうごめく仁王の舌も相変わらず冷えていた。唇が離れたあとのわたしは冬とは思えないぐらいに体温があがっていてなんの羞恥プレイかと思うぐらい恥ずかしくなって、また体温があがるのを感じた。うわー恥ずかしい、恥ずかしいぞ!
!!あっちょっと待って…あのびっくりマークの名称いまピンときた。あーなんか、なんかすごいこれやだな…この思い出せそうで思い出せないかんじ…


「あああエクスクラメーションマーク!」
「うわっびっくりした」
「あーやっとすっきりした〜」
「んじゃ俺んち行こ」


わたしの腕を引きながら、にやりと嫌な笑みを見せたあと耳元で俺んこともすっきりさせてという最低な一言を口にした仁王にエクスクラメーションマーク5つくらいつけてしねって言ってやった。





君とどこまでゆきましょう
(081204)
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