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「なにそれ」
「手が落ち着かない」

トレーを見てみるとお手拭きの入っていた袋が裂かれて山になっていた。机の脇にあった紙ナフキンも同様である。本来の使用方法とは異なる形で無残な姿になったものたち。手元が動いていないと落ち着かないらしい彼女はなおも紙ナフキンを手に取り、裂いて、さらに山を高くする。

「店の人間はいい迷惑やの」
「ん」
「ゴミ増えるし、ビニールって燃えんから分別せんといかんし」
「ん」
「…聞いとる?」
「え?ごめん」
「…」

目の前にこんなにいい男がおるのに…なんじゃ俺は紙ナフキンより立場が低いんか。軽くへこむんじゃけど。

「俺もやろ」
「うん」
「…」
「…」

ふたつのトレーに白い山がふたつできあがったころ店員からもう帰れ的なことを言われた。トレーを見る目からはものすごい迷惑ですオーラが漂っていた気がする。たぶん。


帰り道、手持ち無沙汰な彼女のために手を握った。指が時折動いて俺の手を握り直す。

「落ち着かんのう」
「手が落ち着かないんだってば」
「俺が握っても?」
「うん」
「それは厄介じゃな」




白指をなぞる






弦一郎は食べるのが速い。男の子は比較的食事に時間をかけないほうだとは思うんだけど、弦一郎は特に速い気がする。それに対して私は食べるのが遅いから、なんとなく待たせているような気がしてすこし悪いなと思う。

「…ごめん私食べるの遅いよね」
「いや、時間をかけて食べることは体にも良い」
「しかも好物ほど遅いし」

大好きなものはなくなってしまうのがさみしいから少しずつ食べるのはもはや習慣であって、目の前のチョコレートケーキはなかなか減らない。できることなら一生減らずにずっとこのお皿にいてほしい。我ながらあほっぽい発言。なんか気持ち悪いな私。

「随分大切そうに食べるのだな」
「大事だもん」

やたらと弦一郎がこちらを見てくるので何だかケーキが食べづらい。自分はもう食べきってしまってひまだからだろうか。

「弦一郎、あーん」
「なっ…!」
「ケーキが食べたいのかと思って」

私から目を逸らした弦一郎はそのままコップの水を一気に飲んで、水を取りに行ってしまった。椅子をひく音だとかがやたら大きい。なにその動揺具合。そんなに照れられるとこっちが照れるからやめてほしい本当。

お皿がいつもみたいにきれいじゃない。いつもよりうまくチョコレートケーキが食べられなかった。



皿の上







「このピザとーパスタとーあとこっちのパスタも!んでドリアとーハンバーグ、あ、このAセットで、んでドリンクバー」
「…」
「おまえは?」
「ド、ドリンクバーで…」
「んじゃ以上」

「よーし食うぞー」
「…(量ありえねー)」
「腹減ってねーの?俺言っとくけどわけたりとかねーから」
「あの、お決まりのセリフなんだけどさ」
「なに」
「食べ過ぎ」
「ん」
「丸井とご飯食べるとうえっ…てなるうえっ…て」
「失礼な奴だな」
「胃がもたれるよなんなのその量!」
「サイゼ安いんだもん」
「だもんじゃねーよいくら安くたってさ…注文の時の店員さんのこれはねーよって顔みた?」
「関係ねーし。つーか売上貢献してんだから店は俺に感謝するくらいだろい」
「え、そ、そうか」
「そういうことそういうこと!というわけでドリンクバーでコーラとってきて」
「というわけでってどんな訳だよ」
「あーほら一口やるから」
「そして予想通り一口があまりにも少ないっていうね」
「当たり前だろいお前にそんなやるわけねーだろバカ」
「うざいデブ」
「うっせーブス」


全てはおれのもの



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ほかのみんなは書くか未定

(080621)
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