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学校から家までの道は2ケツのチャリやバイクがよく通る。それはもちろんカップルなわけでオレはそれを見るたびいらっとする。大体2ケツって交通違反じゃん、後ろから降りろっつの。オレの後ろは…まあ空いてるけど…いや別に乗せるやつがいないわけじゃないからオレがちょっと帰ろうぜって言えば後ろに乗る女なんてたっくさんいるからねまじで。でもオレは真面目に違反しないようにしてるわけ。偉くね?偉くね?だらだらオレ一人分の体重を乗せたチャリの横をまた2ケツのカップルが通る。あ、彼女のパンツ見えちった。

いつも帰りに寄るファミマにまたいつも通りに寄った。最近はまったピザポテトと丸井先輩に分けてもらってうまかったルックチョコレート、あとコーラを持ってレジに向かう。だるそうな店員から袋を受け取って外にでると、オレのチャリの荷台に跨る女がいた。

「うぜーどけよ」
「どーせ家向かいなんだから乗せてけバカヤ」
「おまえ乗せてもらう気ねーよな」
「あ、ルック」
「オレのルックにさわんな」
「なにその俺の彼女にさわんな的な」

あははうけるーとか大して笑えねえのに手叩いて笑うし荷台に跨ったまま一向にどこうとしないしもうまじでうっとおしいーうぜー
コンビニの前で言い合っているのも間抜けなのでそいつを乗せたままチャリをこぎ出す。ギーギー嫌な音がした(ダイエットしろって何回言ったらわかんだよ馬鹿)。あーあこいつ乗せるくらいならひとりで乗ってるほうがましだぜ。彼女とか思われてたら超いやなんですけど。

「舌打ちすんな」
「いって!叩くなボケ!」
「ちょ、前向けよバランス崩すっつの!」
「お前のせいだろ!つーか降りろ!」
「別に通り道なんだからいーじゃん」

オレの腰元あたりを掴んでいる手の感覚。これこいつの腹立つとこね、掴むんならちゃんと腕回せばいいものをいじらしくつかむ程度に抑えるっていう。こういうところで女らしさを出してくるってどうなんだよ。やめていただきたい。鼻歌歌うなっつの。これは音痴なのを自覚していただきたい。

「赤也」
「なに」
「赤也」
「だからなに」
「赤也」
「しーつーこーい」
「なんもない」
「うざっ」

そう言いながらオレの腰に腕が回って、今度はあばらが折れそうなほど腕に力が入った。これ腹立つことの二つ目ね。こういう気まぐれ?なんか意味分からないことをよくする。しかもそれらはいつも突然だ。今みたいに名前をただ呼んでみたりするだけと無駄が多い。んでそれにちょっとときめく俺っていうのが一番腹立つんだけどね、なんか…振り回されることにときめくって俺Mかっていう。いや、好きじゃないから、好きじゃないから!ごめんときめくとかなしね、なし。



「家ついた……あれ」

ブレーキを握ってチャリを止めて後ろを見ると、あるはずの人影がない。気づけばチャリはオレ一人分しか乗せていなかったことに気づく。いつから一人だった?あれ、いつ後ろから声が聞こえなくなったんだっけ?思い出せない。コンビニの袋にはちゃんとピザポテトとルック、コーラも入っている。コンビニを出たときには確かにいたのに。オレのチャリの荷台に跨ってたろ。
周りの静寂が突然頭を打つ。
向かいにあるはずの家を見る。

そこに、家はない。

最初からチャリにはオレ一人しかいなくて、後ろに誰かいるはずもなくて、だって、あいつはもう
相当リアルな幻覚を見ていたらしい。笑える。本当にあいつはいなかったのか。じゃあオレのあばら折れそうなくらいに回した腕は誰?オレの感じたもう一人分の体重はなんなんだ。いないって、何。いなくなるなら早く言えよ。つーか最初からいなかった存在に何言ってんのオレ、無理あるっつの。ああなんかもう泣きそう、違う、泣きたい。


オレはあの馬鹿女のことをなんだかんだで好きで、正直な話愛しくて愛しくてしかたなくて、それは昔も今も変わらないのだと思い知らされた。
もういないのに。この世にいないのに。どんだけ存在濃いんだよ、おまえ。



もうすぐ2年。
あいつがいなくなってからオレはどういうふうに生活してきたんだっけ。なんか一気に忘れた。


ロッキー・ホラー・ショー
(080423)
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