text | ナノ



「わたしと晋助は赤い糸でつながっているのかなあ」

出た、いつものくだらない思い付き。またクソ面倒くさそうなことを言い出す。あったけーしちょうど眠れそうだし、と睡眠を選択し無視を決め込んだが、「ねえねえ聞いてる?」と体を揺すられ俺の安眠はこのはた迷惑な女によって妨害された。快晴の屋上で寝ないなど、もはやここに来た意味はない。

「知らねーよ、あほか」
「ほら小指出して」
「…」

付き合わされるのがたるい。

「はやく!」

…どうして、こう、自分の思い立った事柄に関しては強引なのか。ぐいと引かれた左手を見ながら心のなかでため息をついた。おとなしく小指を出すと満足そうに自分の小指とくっつける。こいつの小指は俺の小指の第二関節ぐらいまでしかない。

「指短けえ」
「うるさいな」

小指をくっつけたまま、うーん、と唸り目を細める横顔は無駄に真剣だ。穴が開くほど小指を見たところで赤い糸とやらは見えるはずもなく、しばらくして「見えない」と落胆した様子で呟き、俺と同じようにアスファルトに寝転んだ。

「もし、さあ」
「なんだよ」
「赤い糸でつながってなかったら」

つながっていること前提で話が進んでいることに関してはあえて突っ込まないことにする(あまり言いすぎると拗ねる)。


「ふたりでね、わたしたちのこと誰も知らない、どっか遠いところに行っちゃいたいなあ」


そしたらつながってなくても、晋助とふたりでいられるかもしれないよね。
こちらを向いてにへらと浮かべた、気の抜けた笑顔には不釣り合いな言葉に、思わず顔を凝視する。照れるよ、と額と額を合わせて笑い正面を向き直したその表情は変わらない。有り得ないことなのに、適当なこと言ってるだけに違いないのに、いつものようにくだらないこと言ってんじゃねえよと流すことができなかった。

「…糸なんざ切れたらそれでおわるだろうが」
「うん?」
「こうやって、つないでおけばいいんだよ」

小指と小指をつなぐという柄でもないことをした。そうだね、と笑って力が入る小指に、それ以上に力を込めた。




ほらもう切れない

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