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「やっぱり寝てるし…」

委員会の集まりくらいちゃんと来たらいいのに。図書委員会の担当の先生からは、すっかりリョーマ起こし係だと思われてしまっているようで、いつも集まりに遅刻するリョーマを呼ぶのは恒例になっている。最近は「越前よろしくな」と言われる前にこうしてここに来ている。
木の下で気持ち良さそうに寝息をたてるリョーマは、起きているときの少し生意気な雰囲気はまるでなくて、幼いというか、なんというか、かわいい。直接本人に言うと睨まれるから絶対言えないけど。

「リョーマ!ほら起きて、委員会だよ」
「……ん」
「起きて起きて!」
「…やだ。なんで」
「委員会だってば!」
「眠い」

半目でこちらの様子を伺ってすぐ、目を閉じる。委員会が始まるまで、あと10分だ。声を掛けても揺すっても頑なに目を閉じているから、もうこれは嫌がらせとしか思えない。

「ほんと、絶対起きてるくせに!」
「起きてるよ。先輩がうるさいから寝られないし」
「ちょっと!」

それなら早く起きてくれたらいいのに、楽しそうにリョーマは笑う。いつだったか、先輩が困ってるの見るのって、楽しいよねと言われたことを思い出した。前回の委員会のときにこうして起こしに来たときには、越前くんじゃなくてリョーマって呼ばないと委員会に行かないと言われたりと、リョーマは完全にわたしの反応を見て楽しんでいる。確かにテニス部の手塚くんみたいな威厳はないけど、仮にも後輩にからかわれてるってどうなんだろう…。

「時間ないしチャチャッと起きて委員会終わらせてから寝ようよ」
「…じゃあ、ハイ」

寝転がった体勢のまま手を挙げるリョーマ。そのあとに「起こして」と言葉が続いた。腕時計を見ると委員会まであと5分。

「なにそれ」
「先輩が起こしてってこと」
「自分で起きる!」
「先輩が起こしてくれないなら、委員会行かないよ」

ホラ、と腕を動かして促すリョーマは笑顔というわけではないけれどとても楽しそうだ。明らかにわたし、からかわれている…!
後輩と言えど、男の子の手を握る機会なんてあまりないから恥ずかしい。腕を引っ張って起こすまでは断固動かない様子だし、委員会には来てくれないと困るし、ぐいっと引っ張るだけだ。はずかしいことは何も無いと言い聞かせてのばされたリョーマの手を握った瞬間、わたしの腕は強く下に引かれて体が大きくバランスを崩した。リョーマに覆い被さるみたいな、なんとも恥ずかしい体勢になったから起き上がろうとするのにまだ掴まれている手がそれを許さない。

「先輩、大胆だね」
「!!ばか、リョーマが引っ張るから、」
「静かに。シー」

リョーマのもう片方の手が、わたしの頭に回って引き寄せられて、あまりの至近距離にもう目を開けているのも恥ずかしくてぎゅっと目を閉じる。少しの無言のあと。前髪に微かに何かが触れた。

「……え?」
「ねえ、先輩って何で俺が委員会の前にいつもここで寝てるのかわかってる?」
「あ、え、えーと、委員会がだるい、からでしょ………(さっきの感触はなんなの)」
「…鈍すぎ」


「先輩が好きだから、なんだけど」


頭には依然としてリョーマの手があって、この恥ずかしい距離から抜け出すことはできない。しっかり合っている目を逸らしたいのに逸らすことができない。
「返事は?」とわたしの頭を撫でて、握っていた手はいつの間にか指を交差させるような握り方に変わっていて、どんどん体温は上がってリョーマのことしか考えられなくなる。

「俺、あんまり待てないよ?」

委員会が始まるまでは、あと何分だろうか。




嘘もつけない、隠れられない

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