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(akaya)
「あーっ!何してんスか!」

突然コートに響いた大声にびくっと肩が揺れる。隣で部員たちの練習メニューを一緒に考えていた柳先輩が「またか」とため息をついた。なにがだろうと思いながら書きかけだった練習メニューをノートに書こうと視線をノートに移すと、がっと肩を掴まれた。赤也くんだ。

「え、あ、赤也くん、どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ!」
「な、なにが…?」
「おまえはこっち!」

赤也くんはわたしを隠すように前に立ち、わたしと一緒にいた柳先輩をジロリと睨む。柳先輩はまったく表情を変えることなく黙っていた。なにがなんだか訳がわからないけど、なんか赤也くん怒ってる…?どうしよう、赤也くんがキレると大変だよ!

「柳先輩!こいつと親しく話さないでほしいッス!」
「親しく?…ただ練習メニューについてメモをとってもらっていただけだが」
「それなら他の奴に頼んでくださいよ!」
「え、あの、赤也くんわたしマネ「おまえはいーの!」

マネージャーだから、と言おうとしたのに赤也くんにむりやり遮られてしまった。柳先輩は呆れたように赤也くんを見ている。

「…赤也。その嫉妬深い性格は改善の余地があるな」
「元はといえば柳先輩が悪いんスよ!」
「赤也くん!」
「いーから!おまえはオレだけみてたらいいんだよ!オレの世話だけしてればいーの!」
「そんな無茶苦茶な…」

そのあとわたしの腕を掴んで離さない赤也くんを見兼ねた柳先輩から「お前は赤也を見ていてくれ」と言われてしまい、マネージャーとして任されている仕事もあまりできないまま、わたしは赤也くんの練習試合をひたすら見続けることになった。赤也くんはポイントを決めるたびにわたしにピースを向けてくる。ひらひらと手を振って返していると、休憩中らしい丸井先輩がわたしの隣に座った。

「赤也もガキだよな、お前も大変だろ」
「いや…もう慣れちゃいました」
「あーっ!ちょっ…丸井先輩何やってるんスか!そいつに近づかないでくださいよ!オレの彼女ッスよ!」

「(……オレの、彼女)」

…なんだかんだで愛されてるなあって、しあわせなんだよなあ。




(hikaru)
一足早く部室についた俺は5時間目の名残かやたら眠くて、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。部室についてから15分くらい経っていた。

(眠……)

眠気が覚めずにぼんやりとしていると、謙也さんとあいつの声が聞こえてきた。というか耳に飛び込んできた。謙也さんは声がでかくてうるさい。

「ちゃうねん、そんなんじゃペンは回せへんで!」
「ええ?こう…」
「せやからそうやない!」

…くだらん。あいつはめっちゃくだらんことにペン回しを教わっているらしい。ペンなんか回せたとこでなんの得があんねんと思いながら、俺はまだ眠気に勝てず目をつぶったまま会話を聞いていた。

「ええか、この指をこうしてやな…」
「痛い痛い!謙也先輩指ひっぱってる!」

…ハア?指?引っ張る?
一気に覚醒した俺は勢い良く起き上がり、二人の方へと目を向ける。すると謙也さんはあいつの指だとか手だとかを掴んでペン回しを教えていたようで……なんや、いらいらしてきたような気が…

「あ、光おはよう」
「おー財前、この不器用どうにかなれへんのかいな」
「謙也先輩!不器用て言い過ぎ!」
「……(いらっ)」

いらいらが止まらなかった俺は衝動的に謙也さんから彼女の手を掴んで、そのまま引き寄せて抱きすくめた。

「…あんまベタベタ触らんといてください。むかつく」
「ひ、ひかる」
「おーおー財前熱いなあ〜、邪魔者は退散しよか〜」

ニヤニヤときっしょい笑いを浮かべた謙也さんは「ごゆっくり〜」と何を勘違いしたのかしらんけど部室から出ていった。

「…あの人、勘違いもええとこやな」
「…せ、せやな」
「……ま、ええか」

固まっとる彼女の体をぐるりと反転させて、そのまま唇を奪うと顔を真っ赤にしたまま身動きひとつしなくなる。

「俺を妬かせた罰や」




(ryoma)
なんだか今日は朝練が終わったあとぐらいからリョーマくんの機嫌があんまり良くないような気がする。声を掛けてもなんかそっけないし、わたしが何かしちゃったのかなと考えれば考えるほど頭がぐるぐるぐるぐる……はあ。リョーマくんのことを考えていたら一時間目から四時間目までひとつも授業に集中できなかったしなあ。
昼休み、もやもやと曇る心を抱えながらこっそりリョーマくんの様子を見ようと教室を覗いてみたら、そこにリョーマくんはいなかった。堀尾くんに聞いたところどうやら今日は図書委員の当番らしく、図書室にいるらしい。

昼休みということもあり、図書室にはまったく人がいなかった。リョーマくんは貸し出しカウンターで眠そうに欠伸をしたあと、わたしの姿を見て真ん丸に目を見開く。

「……何か用?」
「あ、えと、その」

やっぱりリョーマくんの機嫌は直っていない。いつもより低い声色に落ち込んでしまう。やっぱり、わたし何かしたのかも…

「…リョーマくん、あの、朝から…機嫌悪い?」
「別に」
「(うそだ…)ほ、ほんと?」
「知らない」

リョーマくんはわたしからフイと視線を逸らすと、カウンターに突っ伏してしまった。完全に怒っているのはわかるのに、理由がわからない自分が嫌になってくる。

「リョーマくん、あの…わたしのせいだよね、ごめんなさい」
「……」
「…わたしここにいても迷惑だし、行くね」

だんだん泣きそうになってきた。ここで泣くのはずるいし、リョーマくんがさらに不快な思いをしたら悪いし、と必死に涙を堪えてドアに手を掛けたとき、突然すごい勢いで腕を後ろに引かれた。

「…泣かないでよ、泣き虫」
「まっまだっ、泣いてない、です…」
「泣いてる」
「…うう…」
「俺が悪いね。……ごめん」

リョーマくんがばつが悪そうに言った言葉が、わたしにとってあまりに衝撃的で、でもすごくうれしくて、涙が一気に引っ込んでしまった。

「でも、アンタが菊丸先輩に大人しく頭撫でられてるのが悪い」


それって、期待していいの?リョーマくん。






わるぎはないの








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