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「ちーちゃん何借りるん?」
「トトロかもののけ姫」
「またジブリ縛りなん?」
「ジブリ以外は好かんと」

ばかでかい身長の男がジブリコーナーを真剣な瞳で見つめ悩んでいる姿は、なんというかとてもミスマッチで不思議な光景である。わたしは流行りの邦画とかが見たいのにと思いつつ、ちーちゃんと並んでジブリをみる理由は、ちーちゃんがジブリ以外の映画はみている途中で寝るからだ。もうこれは仕方のないこととしているのであきらめている。

「わたし耳をすませばがええなあ」
「あれ先週見た」
「毎日日替わりで見てるくせに何言うてんの」
「よしトトロにするばい」
「ちょっとトトロほんま何回目なん?セリフ覚えそうやわ〜もはや若干覚えてしもたわ」
「おっ、トトロごっこができるとよ」
「せえへんわアホ」

ちーちゃんがいま欲しいものはジブリのブルーレイシリーズらしい。いくつか金曜ロードショーで放送されたときにDVDに録画したものはあるけど、最近ちーちゃんの家のテレビも地デジに移行したらしく、大画面で高画質のジブリがみたいというのがいまちーちゃんのやりたいことのようだ。

「はやく夏休みのトトロの再放送をブルーレイ化したか〜」
「そんな違うん?」
「だーから今日はトトロブルーレイ借りるんよ。全然違うたい」
「はいはい…もう何回目のトトロやねん」

ブルーレイのレンタルって通常より高いのに。中学生のくせにそこらへんは気にならないのだろうか。ちーちゃんのお小遣いは放浪の際の電車賃とレンタル代に消えているといっても間違いなさそうである。
うきうきでトトロをレンタルしてご機嫌なちーちゃんと、レンタルショップからでた後にどちらともなく手をつなぐ。ちーちゃんのわたしより何倍も大きな手にすっぽり包まれて、自分がやたら小さく思えた。ちーちゃんトトロみたい。横幅は似てないけど、背が高いのとか。ちーちゃんと並んだわたしはさながらメイちゃんのようで笑える。

「お、たんぽぽ咲いとる」
「ホンマや」
「春たいね」
「春やなあ」


時間がゆっくりながれている。春の暖かい風とか、特有のやさしい空気がわたしとちーちゃんの間をすり抜けていく。
止めていた足が動いて、ちーちゃんが鼻歌を歌いながらわたしの手を引いた。もちろん曲はさんぽである。こんなにご機嫌だからきっと明日はちーちゃんは学校に来ない。電車に乗って、散歩感覚でどっか行っちゃうんだろうなあ。お土産がたのしみだ。



prism waltz


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