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深夜のコンビニバイトほど暇な職種はなかなかないと思う。俺が働くコンビニは比較的暇で、駅に近いためか帰宅ラッシュのとき混雑するぐらいである。忙しく動くのもだるいからこれでも支障ないが暇すぎ眠すぎで死にそう。でもこれで深夜の時給1100円はおいしすぎるから俺はバイトをやめる気はさらさらない。
しかしこんなに人が来ないなら24時間営業することねーのになあ。バイトが多い割に繁盛していないこの店のどこから給料が発生しているのか不思議でしょうがない。利益出てんのかねえ〜と少し考えてみるがきちんと金は貰っている、というわけで俺には何ら関係ない。一瞬で疑問は消えていった。くだらないことを考えてもしかたねえし、今日発売のエロ本でも読むか。棚整理してるふりでもしながら
今日は店長とシフトが同じだから気が楽だ。店長は基本休憩室から出てこないし、立ち読みだの何だのしてても何も言わない。とりあえず文句こなけりゃいいだろ的な、いい加減にも程がある店長のスタンスは割と気に入っている。あくびを噛み殺しながらきわどい水着を着た、まだ名の売れていないアイドルを眺める。こういうときの時間の流れの遅さはやばい。きっと一時的に時の流れは止まっている。このコンビニは異次元空間なのだろうか。どうせなら3倍早く時間進めろと姿形もないものに対して心の中で毒づいてみたが、当然ながら何も変わらなかった。


「な〜にしてんの銀時くん」
「真面目にお仕事」
「エロ本みてるだけでお金入るとかないよね。わたしもここで働こうかな」
「うっわあ勘弁しろよ、考えただけで萎えるわ〜」
「起てられても嫌だわ」
「おまえで起つかよ」
「しんでください」

奴の足が俺の背中を蹴って、軽くよろけた。反動で雑誌はぱらぱらとめくれていきページは袋綴じの前まで進む。ああみたい袋綴じ
このコンビニの近くには、高杉が一人暮らしをしているマンションがある。こいつはよくそこに出入りしているらしい。高杉はホストだ。あんなのが女ウケすんだから世も末だわと俺は常々思っている。

「晋ちゃんいなくてひまで来ちゃった」
「寝ろよ」
「明日三限からなの」
「おまえ俺の代わりに働け。二限スタートの俺に謝れ」
「絶対嫌だ」
「さっき働こうかなって言ってたよね」
「しらん」

ところで廃棄の弁当ないわけ?と誰もいないコンビニの店内をスキップしながら徘徊する様が妙に腹立たしい。悔しいが1人で店番するよりこいつがいたほうが時間の経過が段違いではやい。追い出す気は少しも湧いてこない。
それから俺はエロ本を熟読し、あいつは何かよくわからない漫画を読み、お互い無言で話さないまま時間が流れていく。どのくらい経ったのだろうか、客が入ってきたことを知らせるベルが鳴って、入り口を見る前に俺はいらっしゃいませと口にしていた。一年かけて身についた条件反射である。

「お前かよ」
「客に向かってその口の聞き方は感心しねえな」
「何も買わないくせに何が客だよお前」
「別に俺ァてめーにゃ用はねえんだよ」

そう言うと高杉は未だ真剣に漫画を読み進めるあいつの名前を呼んで、頭をガッと掴む。肩がびくりと揺れて迷惑そうに顔をしかめた後、それが高杉だとわかるとふわりと表情を和らげて、にこりと笑った。


「晋ちゃん仕事終わり?」
「今日は早いっつったろ」
「言ってないよ、それ晋ちゃんの夢だから」


会話はどうってこともないし、別に露骨にイチャついているわけでもないのに見ていて腹の立つ光景だと思った。醸し出している雰囲気のせいかもしれない。高杉はいつも何を威嚇しているのか、やたら殺気だったはた迷惑なオーラを出しているのに今はそれを全く感じない。牙を研がれておとなしくなった肉食動物のようだ。他愛ない言い合いを続けるふたりの間には入り込めない雰囲気が漂っている。あれ、なんかこれって、何かこの感じさあ…

「え、あのさ、お前ら付き合ってんの」
「えっなにをいまさら」
「ボケてんのか」
「え、えええ〜…?」

ええ〜という俺の発した声が自分の中でさらにエコーで響く。まじで知らなかった。こいつらとは腐れ縁なのに、本当に知らなかった。ただちょっと仲良いだけじゃないのか。多分ずっとつるんでいたからわざわざ言うことでもないということだろう。でも、なんか、俺すごいさみしいんですけど
いつの間にか高杉もあいつもいなくなっていて、コンビニは変わらず俺一人になる。廃棄の弁当が数個消えていた。クソ、からあげは俺がもらっていくはずだったのに。

再びコンビニの時は止まる。
変な喪失感がつきまとい、だるさが襲った。二限行きたくねえなあ。


隔てのメイビー



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