よく食べるなあ。
綺麗な食べ方で、どんどん減っていく。蛍光灯でてかつく皿と、横に避けられた色どり用の野菜、とうがらしの匂い、に、混じったバラ臭い香水。ペペロンチーノに恋するお前。そんなお前に恋する俺。一方通行かもしれないですね、愛。

「おチビちゃんも食べる?」
「罰ゲームか!」
「なんで」
「タバスコ半分ぶっかけただろお前」

美味しいからね、と笑って見せる。きゅうっときつく締まった下腹部。今日のズボンはサイズが合っていないのかもしれない。それかベルトの穴の数を間違えた。きっとそうだ。穴があったら入りたい。そこからお前を見つめていたい。

耳に掛けられた髪が、はらりと落ちた。熱心にフォークにパスタを巻き付けるお前は気付かない。そのままだと口に入りそうで、持ち上げられた腕をそっと押さえ込む。どうしたの、と聞いた声は、今日も明日も俺のものであり続けてくれるのか。聞いたらお前は俺の欲しい答えをくれるだろうけれど、別にいいや。

タバスコの付いた唇が女みたいなお前を他の誰かが好きになるなんて、わかっちゃいるけど。それでも今、隣にいるのは俺なんだから別にいいや。この、若くておかしな湧き上がって止まらない気持ちを抱えて悶々とする一番大切な時期を一緒に過ごせるなら。別れても、思い出で、人は生きられるらしいから。

「いつものゴムはどうしたんだよ」
「ああ…忘れたんだ」
「珍しいなー」

テーブルの上で残り少なくなっていたナプキンを空いた手で掴んで、ぐしぐしと押し当てる。ただでさえひりひりしているだろうそこを、狙って痛くして、泣けばいいのになんて願ってでも例え自分でもお前を泣かす奴はどうしても許せなくなって泥沼。に、落ちる前に、助けてくれ。俺よりも大きな身体で、いつだって甘える腕を貸してくれればいい。抱き締めてくれとは言わない。止めてくれとも。されるがままで、ちょっとだけまた笑う。細められたアイスブルーが、悲しみで溢れ出す瞬間は、何回見ても慣れないんだ。でもそうやって皺の中に埋まる所を見るのも実は苦手だったりする。怖くなってきて、しまうから。

「だって、…翔とデートするの、久々で浮かれてたからね」

俺の手が腕に触った時、拒否してくれれば良かったのかもしれない。なんでもないことのようにこいつはおれとのえいえんをしんじている。肝心な部分からは目を逸らしてばかりだ。なあお前さ、俺のどこを見てるんだ?

「恥ずかしい事言ってんじゃねーよ!」
「やだー、可愛い」
「可愛いって言うな!」

中途半端にフォークに絡まったペペロンチーノが、段々ほどけていく。あんなに一生懸命巻き付けていたのに。口に運ばれる前に、ふにゃりと力なく皿に戻って行く様を、横目でちらりと見つめた。

俺にそっくりじゃないか。色んな意味でペペロンチーノが嫌いになりそうだ。でもお前が恋をするなら、その真っ赤な海の中に浮かぶ無様な姿のままでいい。


END



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