誘い込むような熱に浮かされて、腰を掴む。日焼けした肌に上塗りされた羞恥が視界に飛び込む。焦げる。顎を乗せた肩が、小刻みに震えて止まらないのをいい事に、ゆるゆる耳を舐め腰を動かし有頂天になる。纏わり付く香水は、女のものと大差ない。耳裏に吹き掛けているのをよく目にする。上昇した体温のせいでいつもよりもきつく感じる其れに舌打ちをする。

「女臭ぇ」

極力穴に唇を近付けて毒を流し込むと、一際締まりの良くなった別の穴。捻じ込んだ自身をしゃぶって離そうとしない。うねる壁を駆使して、高ぶった欲を翳して、何を怖がっているのか理解できない。最初から独りなのに。自分はすぐに手放すのに。
手を、上手く、握れないから、最初から、繋がってなど、いないのに。

意味を履き違えて快楽を生み出す滑稽なこの男が、そんな男を抱く己が、酷く滑稽に感じられて笑う。勘違いで縋る弱さを、蹴り上げた。女に嫉妬なんてしていない。この男を女だとも思っていない。どちらの意味合いにも取れる言葉を吐き、ぶつけたのは、単純に気持ち良くなりたいからだった。

「ご、ごめ…っ」

謝る暇があるならもっと別の事出来んだろうが。
苛立ちが募る。振り向いた顔は涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだった。いつもの小奇麗さは微塵もない。自信に満ちた双璧の奥にある、不安が丸出しだ。薄く張られていた膜を破って、止まるところを知らない、欠片も甘くない塩水が落ちて行く。それに誘発されて、鼻からも細い筋が、窓硝子の雨垂れのように流れて。律動に浅くなった呼吸を繰り返す口端からも、だらしなく伝う半透明な女々しさ。汚い。

おれもおまえもどうしてこんなにきたないんだろう。

どこよりも醜い白濁を零す、穴をまた突いた。
誰よりも見難い愛情を零す、嘘をまた吐いた。

「さ、はぁっ、あっ、あ、い、んーっ」
「それ以上、言うな」

気に食わなくて、人差指と中指で舌を掴む。余計な感情は要らない。歪んだ表情に、満たされる。前を向かせて、もう振り返る事など出来ないように、ひたすら。

「っ、も、そんな…っ」
「うる、せぇ」
「さ、きっ、おねが、ふぁあっ」
「黙ってろ、って、言ってんだろ…っ、もう抱かねぇぞ」

途切れ途切れに、そんなこといわないでくれよ、と、か細く泣いた声が響いても、今更どうしようもなかった。本当に今更、普通に愛する事なんて出来るはずがないのだから。

首筋に噛み痕を残す。胸板も脚も腕も柔らかくないのに、ここだけはいつまでも脆いままだと知っている。肉に食い込む感触。いっそ動脈でも噛み切ろうか。そうしたら楽になれるのに。普段は髪に隠れて見えない弱点を掌握する優越感に浸って、仰け反る背中に触れるか触れないかの距離で落とした気持ちは一生浮かばれないだろう。

間違いを正すのならば、君と出会ってしまった所から。

END



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