※両片想い、嶺子ちゃんなので人称違い注意※
































今日も、ランランはライブがあったから、帰りが遅い。わたしと言えば、こうやってお夜食のおにぎりを握って、待つだけ。勝手にやっているだけだから怒られるかもしれないな、えへへ。

決して広くはないキッチンが、ほこほこしたご飯の匂いでいっぱいになる。蒸気でしっかりとむらして、ランランの好きなお米の硬さにしたら、揚げておいたからあげを真ん中にぎゅっぎゅと詰め込む。こうやって好きな人に想いを馳せながら料理をすると、愛情が増すって言うのは嘘じゃないなあ、と、塩をまぶした手で小さな三角形を作っていく。

家に来ても何も言わなくなったのはいつからだろう。もう忘れちゃった。今日のライブもカッコ良かったよって、あとでお手紙書かなくちゃ。わたしがいた事、きっと知らない。後ろの方。お客さんいっぱいいたね。でもちゃんと、約束した通り、ランランが選んでくれた服で行ったよ。オシャレ、ほんとはしたいのにな。ランランのために可愛くいたいのにな。背中が大きめに開いたワンピースだって、太股がよく見えるミニスカートだって、着たいのにな。いじわる。こんな地味なモスグリーンのセーター、着こなせないもん。ジーパンとどうやって合わせたらいいかわかんないもん。でも、選んでくれたのはすごく嬉しかったの。このセーターを選んでる間、嶺子の事いっぱい考えてくれたでしょ?それだけでいいや。もうこれ 以上は、いいや。

終電までに帰れるかな。帰らなかったらまた不機嫌にさせちゃうもんね。この部屋にずっといると、帰りたくなくなっちゃう。狭いのに、ランランの好きなものが並べられているし。獣みたいに歌っているルーツがわかる気がする。全然知らない外国のアーティスト、勉強したんだよ。ちょっとだけ、いつも言ってるロックが何かわかったよ。多分。こういう、曖昧な言い方も好きじゃないから直したいのにね。自信がなくてごめんね。

そばにいる事を、なんで許してくれるんだろう。ずっとわからないのに、聞けない。ランランはカッコ良いからモテる。見た目だけじゃなくて、生き様が。嘘のない、真っ直ぐな人だから。そんな人が作る音楽だからこそ心に響く。あの歌たちに、音たちに、励まされている人が一体何人いるんだろう。わたしももちろん、その中のちっぽけなすみっこの一匹だけど。

美味しくなって欲しいのに、魔法もかけられない。あなたを思うと、幸福感で満たされるのに、どうしてだろう、独りなの。海苔を巻こうとしたのに、他の場所から海の味がぽたぽたって。困ったなぁ。ダメなのに。控え目に引いたアイラインが黒いからって、おにぎりには不釣り合いだよね。まずくなっちゃう。せっかく、せっかく、あなたのためだけに握った午後二十二時の、なんの価値もないおにぎり。


END





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