リューヤさんのチョコミント。不思議そうな顔をしているけど悪口だよ。オレはチョコレートが苦手だからね。ミネラルウォーターを飲み終わった神宮寺が小声で悪態をつく。身体ばかりの関係だ。ピロートークなんて物はない。早急にこの空間から出たかった。
日向は煙草を吸っている。洗いたてのシーツはいつの間にか皺まみれになっていた。その上に灰が落とされたくらいで今更文句は言わないだろう。元教え子は。憶測に過ぎないけれども。彼の部屋はいつも寂しい。どこか。人がいた痕跡を残したままにした方が、喜ぶに決まっている。
チョコレートに例えられた所で、日向は何とも思わなかった。突拍子もない物言いには多少驚きもしたが、その奥にある神宮寺の下心や劣等感にまでは気遣ってやれない。中途半端に優しくしてしまったら、取り返しがつかなくなるのは明白なのだ。しかし、現在の関係の方が余程、ブランコを漕ぐ両足のように不安定であると自覚してもいる。

そうか、と気のない返事をして、今日何度目かのスケジュール確認を携帯端末で行う。溜息代わりに吐き出した煙はどことなく暗い紫で濁っていて、スモークさながら神宮寺の部屋の、ただでさえ薄くなった空気を汚した。二酸化炭素より質が悪い。日やら神やら、ありがたいものばかり名前に授かっているのに、新鮮な酸素は二人でいても作れなかった。男同士であるから、という問題を抜きにしてもだ。

明日の打ち合わせの資料を一枚、印刷し忘れていた事に気付いた日向は、多少気怠さの残る腰を、よっこらしょ、と言いながら上げる。それを聞いた神宮寺は面白そうに目を細めて、そろそろおじいさん役のオファー、来るんじゃない。と、揶揄する。どうしたものか。その笑顔は、ぎこちない。彼の持っていたミネラルウォーターのキャップは、ころりと床と笑っているのに。産まれたままの裸で、偽物のように愛し合った所で、お互いの腸の奥は。

リューヤさんの、チョコミント。優しくするなら最後までって、何回だって言っているよ、覚えてないのかもしれないけど。ああ、ごめん、うまく、リューヤさんが理解できる言語には変換出来ていなかったかもしれない。自分ばかりが欲しがって、しまっていたかな。どんどん逃げ場がなくなっていくじゃないか。もう終わりにしようって、言えると思った?残念、そこまで強くないんだよね。強かったら、身体だけ、なんて言い出さないよ。全部を愛してくれって、みっともなくたって、格好がつかなくたって言うよ。でもさ、そうしたら、リューヤさんはガキが無理すんな、なんて、それこそ。ああもうやめよう。ああもう、そうだよ、ねえ、リューヤさん。

END





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