空になったペットボトルの山を、ゴミ袋に纏めて口を縛る。がらごろがら、と鳴ったそれを見下げると、結婚式を思い出す。車の後ろで引き摺るアレは悪魔払いのためにわざと派手な音をあげるらしい。確かに愉快な物ではないけれども、聖水だなんだで退治するべき存在が、無機質な悲鳴で逃げ出すとは思えなかった。

神宮寺には悪魔が取り憑けばいい。

純白のタキシードの胸元には、赤い赤い薔薇が笑っていた。俺はまったく笑えなかった。花弁を見つめて、一枚一枚、何故そんなにも染まってしまったのかと問いただす。まるでこいつを祝福するためだけに生まれてきたみたいだ。真実の愛と、情熱的な血と、色情狂の唇の色彩を奪ってきたんだろう。

わざわざ悪いね、と遠慮がちな口調。そうじゃないだろう。生意気に、小馬鹿にしたように、何度先生と呼べと教えても聞かなかったお前はどこにいっちまったんだ。
オールバックにしたママレード色の髪に、ステンドグラスから落ちた光が眩しい。虹色に燻る。滲む。ついにはタキシードまで、濡れていく、塗れていく。お高くとまった無名画家のキャンパス。中心に描かれたお前は、俺のよく知る男とはかけ離れている。
返せ。
返せ、返せ、返せ、返せ、返せ。
おれの、じんぐうじれん、を、かえせ。

アイドルなんて偶像でしかない、と、おっさんが言っていた。万人が、見目と人格を無視して、理想を押し付ける。週刊誌で売られる言葉を買えば裏切りだと訴える。相手が人間だと言う事を忘れてしまうのだと。都合のいい神にされて、浪費されて、紙切れに写っていたらいつの間にか己が紙切れ同然に捨てられる。なるほど、あの時はわからなかったが、今になってようやく納得がいった。

俺の物だった事なんて一度もなかったのに恐るべき想像力と自己満足で教え子であり後輩である軟派で軽率に見えて人一倍優しく気配りが出来さりげなく人を救い誠実さとファンへのサービス精神を毛先から爪先まで散りばめた、もしかしたらこれすらも俺の妄想かもしれないが、せめて生徒として一年、後輩として数年見守ってきた父性と兄を混ぜたような立場である自身の瞳に居た姿は虚像ではないと思わせて欲しい、そんなお前。



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