※美女と野獣パロ、鼠の国基盤※














「なにを、しているのですか」

絶対に入ってはいけない、と、鍵を閉めておいた部屋へ、好奇心旺盛な彼は忍び込んでしまった。ショウやオトヤに見張りをさせていたにも関わらず。久しく人が訪れず閑散としていたこの城に、希望を携ええた彼が現れたので、浮足立っていたのかもしれない。
爛々と輝く瞳は、呪われる前のナルシズムに満ちた私の肖像画を映して。嗚呼、あなたも、その枠の中で生きる男が私だと聞いても、信じない。

「あんなに必死に隠されたら、何があるのか気になるのが」
「あなたは。私との約束を、守らなかった」

引き裂いた絵画から、卑しい光を放つ薔薇まで。一巡してしまった目線を、逃さなかった。ガラスケースに触れていた右手を掴むと、彼の掌の大きさは醜い獣の前足にいとも容易く飲み込まれてしまう。力を入れたら、骨も肉も、正常な形状を保っていられない。顔を上げると、怯えた彼がそこにいて。出会ったばかりの、兄を監禁され憤り自らを人質に、と言い出した時の表情と、まるで同じ。彼が持つ二つの海はみるみるうちに嵐に乱される。透き通る青は曇り、私の人より何倍も鋭くなった嗅覚が察した時には、別離が男を盗もうと口を開いた後だった。想像以上に強い力で振り払われて、ああこのひとはわたしにやさしくふれていてくれたのだ、ほんとうはいつだってこんなばしょにげだせたのだと、場違いな喜びがせり上がった刹那消えた。追いかけられない。このまま、きっと。空間を埋めるようにして拳を握り、閉じた唇に収まりきらない牙が、強欲を示すような黒々とした獣毛が、何もかもが、悲哀の要因となって、あの薔薇のように心の中に咲いた。

「約束を守らなかったのは悪かった。でもオレは、ただ、お前の事がもっと知りたかっただけなんだ」

一度離した体を、彼は何故か、再度密着させた。決して細くはない腕でも、私の背中までは回らない。盛り上がる瘤じみた肉を、私の好きな柔らかい木の温かさを残したテーブルと似た薄茶が、撫でる。その手付きは、体の中までも入ってきて、咲いたばかりの悲しみを容易く手折った。棘が誰かを、私自身を、攻撃するその前に。

「大丈夫。誰にも言わない。これからもそばにいる。このお城にはたくさんの魅力的な仲間がいるのに、孤独だったんだろう。悲しみは、独りの方が育ってしまうって、オレはよくわかっているんだ」

低く甘い、彼の作る朝食を思い出させる声に、ガラスケースへと向けられていた想いが、ぐらりと、床に落ちた。

END



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