四つ角を曲がったら、あなた私をどうするおつもり?

右左右右、と、指示を出された通り車道を進む。道順を説明する時以外は窓の外を眺めているようだ。レンは黙って指示器を出した。点滅するライトは警報にも見える。黄色が忙しなく存在を主張していて、踏み込んではいけないと喚いているのかもしれなかった。

宵闇に対向車は飲まれて行き、あっという間に消えてしまった。薄汚れたネオンを目指してひた走る自分たちとは違う。格式ある伯爵は庶民が愛を営む場所に興味を持ったらしい。話したのはお調子者の先輩であろう。特徴的なレトロヘアーが脳裏に浮かんだ。

「行ってどうするの」
「何かしなければいけないのか?」
「休憩もあるから、好きに過ごしたらいいんじゃない」

車窓から窺えた表情に変化はない。変わらない透明感のある視線。その中に性に関する感情も、生に関する感情も、読み取れない。カミュの知的好奇心にレンは引きずり回されているだけだった。無知を恥とする公家の人間らしい一面に、憎らしい共感もしつつ、降り出した雨にワイパーのスイッチを入れる。ルーフは出さずに。

「これでは濡れてしまうではないか、馬鹿者」
「スる事が出来たじゃないか、ホテルで」
「無粋な真似をしないと理由も作れない男だとは思わなかった」

緩い雨足にすら翻弄されて、長髪の二人の男はどんどん湿り気を帯びていく。ミルクティーとオレンジは重たく暗い色へと変貌を遂げた。カミュのおろし立てのスーツが糊を失って動揺している。レンの手首に巻かれたレザーブレスはそっと笑った。

「過大評価し過ぎなんだよ、オレを。しがないただの凡人さ」

五つ目の角を曲がったら、私あなたをときめきで殺して見せるわ。

END



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