青春なんて似合わない


 不健全だ、と射精後のふやけた頭で考えた。


隣に寝そべるレンは自分の性欲が満たされたのか満足したように目を閉じている。いつもこの男の雰囲気に流されるまま唇を重ねそれから、ああ、まあ、この先は察して欲しい。そんなごく当たり前のようにセックスをしている訳だけれど、私たちが本来この様に関係になるのは何年も先であるはずだと感じる。現に音也に借りた雑誌にも段階を踏んでから体を重ねるべきだと書かれてあったし、私が読む本にこんな恋愛は存在しえない。おかしい。こんな狭いベッドで本来の目的ではないレンの穴に私の欲望をぶちまけるのもおかしい。きっと、私たちはもっと高校生らしくあるべきだ。こんな事ばかりしていては頭がへんになってしまう。よし。


「レン、健全に交際しますよ」


「どうしたのさ、いきなり」


「海です」


「ねえ、イッチ「明日、午前10時に現地集合で。では」



後ろから「ほんとなんなの」という声が聞こえたけれど無視をして部屋を出た。彼は約束を取り付けられたら確実にやってくる男だ。

壮大な青い海と輝く波を見れば、きっと彼も私も真っ当な道に帰れるだろう。


次の日。彼は10分前にやってきて、同じく10分前に到着した私を見て静かに笑った。緩やかな日差しの下で輝くレンの髪は美しい黄金色で、やはり彼は太陽の下が似合うと実感する。そうだ。あんな小さな暗い部屋でセックスなんて堕落した行為をしているようでは駄目なのだ。そんな不健康な運動などあってたまるか。しかしそんな私の考えとは裏腹に、レンは今この瞬間私に絡みついてくる。


「イッチーに青姦趣味があるとは、意外だな」


「…あなたの頭はそればっかりですね。せっかく海に来たんですから、波と戯れたりして下さい」


「目の前に愛しい人がいるのに波なんかと遊んでられないさ」


「いいから、はなれなさい」


「なんで」


「私たちは近づきすぎたんですよっ」


ひとしきり力を込めた後にそう言葉を吐くと、レンはゆっくり俯いて私から離れた。目の前には水しぶきを上げる海。沈黙。火曜サスペンスではないけれど、これはなんだか嫌な予感がする。と、思った時にはもう遅い。やっぱりレンはあっというまに方向転換して海に向かって走り出した。止めなさいと呼びかけてみても全くの無視で彼の体がずんずん海に沈んでいく。海面でゆらゆら揺れる髪の毛が不安定で、たまに来る波でレンの体が流されてゆくのが見える。私は馬鹿なんじゃないですかと心の中で悪態を吐いて彼を追いかけて海へ入り、海水に濡れた腕を掴んだ。



「なにやってるんです」


「なにって、離れたのさ」


「流されたらどうするんですか」


「だからイッチーにくっついてたのに、君が俺を離すから、このざまだ」





レンの腕を引っ張って海から上がると、まるで悪魔のような笑顔と濡れた唇を近付けてくる。そして悪戯っ子のような軽い口調で「イッチーはどこにいたって俺を離しちゃいけないんだよ。わかるかい?」と、ひとこと。


私は内心またこの男に翻弄されている、と思いながら塩辛いレンの唇を舐めた。絡められた指先と舌はあの部屋のものと全く同じで生温く、やっぱりわたしたちに青春なんてにあわないのだと、ため息をひとつ。









 
2012 4 26 エリミナトリア様





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