澄んだ空気を汚す、一筋の、綿菓子が、揺れている。

そんな事をふと思った。盗み見るツンツン頭。こっちの視線には気付いていないようだ。ずずず、と綿菓子を作るために細く熱い、体を蝕む薬物を吸い上げて、ぽぽぽ、と今度は輪っかになった綿菓子を吐き出していく。
ベランダに出た理由は忘れてしまった。なんだっけ、星が綺麗に見える、と言われたからな気がする。都会でそれは珍しい、どれどれ、と身を乗り出して見上げたそこには、確かにたくさんの金平糖が夜いっぱいに広がっていた。でもそんな綺麗な金平糖を隠すように、夜を薄めるように、綿菓子がいきなり、製造され始めて。

自分が綺麗に見えると言ったものを、君は汚してしまうのかい。
君はひどく残酷だね、僕のことも、綺麗だと、言ってくれたよね。
つまり僕は、君に、穢されてしまうんだろうか、だーりん。

綿菓子は次から次へと夜に放たれる。増えていく。もくもくするのが炊き立てのご飯の上なら良かったのに。一緒に御飯が食べれた。もくもくするのがお風呂の上なら良かったのに。一緒にお風呂に入れた。もっと普通に幸せになれたかもしれなかったのに。
なんでだろう、オレは、その綿菓子を食べたいと思う。君の、体内を蹂躙し尽くして、要らなくなって棄てられるその、綿菓子に、染められたいと、思う。なんでだろう、違う、君に変な人だなんて、気持ち悪いなんて、気付かれたくないし、気付かせたくないし、傷つけたくないし、何より嫌われたくないし。こんなこと、思いたくはないよ、健気に、真っ直ぐに、君を愛していたいんです。
それが叶わなくって泣いたことも、今までたくさんあった。好きに変わりも代わりもなくて、君だけずうっと想っているよ。

思考の吐き出し口に迷って、どうしようもなくなって、がばっとしゃがんだせいで、レールにつま先が食い込んだ。斜めになる世界、思わず君の肩に手を伸ばす。

「あー危なかった」
「いや、痛い。こっちが痛い」
「こけそうになっちゃった」
「なっちゃったって…可愛くねぇから」

ばーか、と笑う唇。うんいいよもうかわいくないのは知っているから。君がそのことを口にして笑ってくれるんだったらいくらでもオレを罵倒していい。それで君が笑うなら、心の底から、わらうなら。

「綿菓子が、食べたいな」
「は」
「あ、なんでも」
「目、つぶれ」
「いいよ」
「いいから早くしろって」
「りゅ」

ずき、ずきずき、濁点いらない、すきすき、すきだ!

一呼吸置いて、思い切り送り込まれてきたのは、オレが欲しかった甘くない綿菓子。君からオレにどくどくどくどく、と注がれるソレは、噎せ返るような、オレにしかわからない、独特の毒々しいあっという間になくなる甘味。触れ合った箇所から漏れないように、きつくきつく重ね合わせて。視界いっぱいの星はいつから君の顔になったんでしょうか?

「っは」
「俺じゃなくて星見て欲しくてこっちに呼んだんだよ、ったく」
「ぇほ、っく、ごめんね」
「許してやらない」

至近距離で、細められた瞳のせいで涙が出そう。おかしくてごめんね、謝るから嫌わないでね。
首に回された左腕に、まだ火事の火種を持ったままの右手に、オレの分け与える、オレの抱く感情の、金平糖一つ分でいいから伝われ。満天の星と同じくらい輝きながら。

すきです、きみを、しあわせにします、もっと、もっと。

「リューヤさん、星よりオレの方が綺麗って言ってよ」
「誰が言うか」


END



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