どうしよう。リューヤさんの部屋には天井にシミなんかない。
押し倒されながら思ったのは、ちょっと場違いにそんな事。


「リューヤさん」
「なに」
「この部屋、天井にシミがないから、その、どうしよう」
「んだそれ」

耳に、低くて心地良いけど、困っていることがすぐにわかる声が当たる。一瞬体がぞわっとして、無意識に抱き締めていた腕の力を強くしてしまっていた。

オレたちは普通に、キスしていただけ。ちゅうちゅう、何回も何回も、お互いの唾液の味がわかるくらい。とにかくリューヤさんはキスするのがうまくて、吸ったり舐めたりを繰り返していると、いつか魂を吸われそうだ。多分、今まで何人ものひととこういう事をしてきたんだろうなぁとぼんやり悲しいことを考えた。いまりゅうやさんはおれのこいびとだというのに。

天井のシミの話をしたのは、オレがバカなことを言ったら、リューヤさんがオレに呆れて、これからやろうとする事を諦めてくれると思ったからだ。きっとそう。教えてくれたジョージには申し訳ない。でも今時天井のシミのある部屋なんてないんじゃいかな。現実逃避しかけると、ぽたっと頬に落ちた汗ではっとする。今オレの上にいる人は、真剣な顔をして、何か言葉を返そうとしてくれている。やめてもうまたすきになるいまもすき。

「じゃあ」
「うん」
「今までお前が俺を好きだって思った瞬間、あるだろ」
「いっぱいあるよ」
「それを思い出して、数えてたら終わる」
「っん…」

むにゅ、とした唇が耳に押し当てられて、かぱっと開いたその口に、複雑なあの耳の、シワや凹凸を1つ残らず食べてしまったので、たまらなくなってリューヤさんの身体を抱き締めた。縋り付いた自分の手は筋張っていたし、伸ばした腕も筋肉があって血管が透けてあまりにも男らし過ぎるから、そこでまた、何も、何も認めたくなくなる。

オレが男なこと、リューヤさんが男なこと、オレがリューヤさんを好きなこと、リューヤさんがオレを好きなこと、日本の法律、アイに見えないアイ。

食べられた耳を、素敵だなと思うのに、食べられるオレは、なんでこんなに、素敵じゃないんだろう。

リューヤさんは、耳をしゃぶったままオレの着ていたワイシャツをゆっくり捲る。捲ったってそこには、柔らかい肌もいい匂いもおっぱいもない。硬い腹筋と汗臭さとまな板以下の胸しかない。恥ずかしい。恥ずかしい。今すぐレディになりたい。彼女に変身したい。りゅうやさんがいままであいしてきたであろうこいするおんなのこにならせて。

「…まっか」
「ぅ…ん…」
「悪ぃな、我慢出来なくて」
「ゃ、リューヤさ…みみ…っ」
「…感じんの?」

しぬ。
リューヤさんがオレを殺そうとする。

END



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