残さず食べてね、と囁かれた。そのまま耳朶を食らう君が綺麗。

甘ったるいのは吐息だけじゃなくて、触れた箇所全部。爪を短く切った指が、音を立てて肌を滑った。軋むベッドと君の背骨。足の付け根を丹念に撫で上げて、口に含んだ熱を遊ばせて、それから、どうしようかお姫様。尋ねた所できっと答えは返ってこない。薄い茂みの中見つけたのは君の欲望、欲の棒。下品?男は下品で出来ている。

ちらりと見上げれば目元が真っ赤に染まっていた。緩いオレンジ色の髪と合わさって夕陽を、なんだろう溶かしているだけでは飽き足らず自身の黒い心で殺して行ってしまっているような、不思議な感覚がした。じわじわと、拒否を奪ってしまえ。シーツの上に広がっていく暖色を、男色に変えてしまったのはいつからだろう。

太陽も海も併せ持つ身体を、貪ってしまっていいのだろうか。罪悪感ばかり、喉に詰まる。

そのくせ瞳は突き抜けるような青で、そこからぷくりと膨らんだ水滴が落ちて行くと、深海に溺れ沈む気分になった。呼吸がうまく出来ない所が、海にそっくりだ。酸素が足りない。僕は深海魚にはなれないらしい。底辺に生きているのだけれど。そもそも原因はなんであれ僕は君を泣かせたくない。それなのに、口の動きは止まらなかった。舐めるのは苦過ぎるスイートラヴァー。肥大していく様は独占欲に似ているかもしれない。

君の吐く二酸化炭素を僕が吸って、僕の吐く二酸化炭素を君が吸う。それ程の距離に居るのに、僕の不安はどこまでもついてきた。

頬の内側で先端を押し潰して、噛み痕を何度も何度も繰り返し付けて行くのは愉悦をもたらすばかりだ。引き攣った声が耳に届く。どんな歌よりも醜いのに、心地よさを感じてしまう。低く響く声に調子付いて、根元まで口内に取り込んだ。溢れ出る先走りを飲む。ぢゅく、と唾液と混ざって、どちらの体液かわからなくなるこの瞬間が好きだ。いつの間にか添えられた手が、髪を乱す。力の入らない指で、力の入らない足で、僕の事を離さないように、それはもう必死なようだ。なんで。なんでそんな。

上げた目線の先、笑っていた。君はとても幸せそうに、僕を見て、笑っていた。
いつもの揶揄を散りばめた笑みではなく、心の底から。

顔は快楽でぐしゃぐしゃで鼻水だって涙だって涎だって僕の精液だって拭わずに、
(可愛い、)
絶頂寸前の震える身体で、
(可愛い、可愛い、)
眉尻を下げて、目を細めて、鼻もほんのり染めて、唇の端がふわりと上がって。
(可愛い、可愛い、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!)

きれいなきみをよごすのは、ぼくです。
ぼくだけでいいのです。
きみがほんとうにはいになってよごれたすすになるまで。

好きだ好きだ大好きだ愛している。
少しだけ口を離してうまく形容出来ずにそう思っていたら、君が吐き出した僕のとは違う白い聖液。うまくないのに、身体に染み込ませたくて、我慢できない。絡み付いて、余計に上手く話せなくて、離せなくってごめん。気の効いた言葉一つ言えなくて、たぷりと溜めたそれを何度も舌で転がしたら、段々甘くなってきた、気がした。幻想、なのか。君の全部も。

「リューヤ、さん…っ…ついてるよ…っ」

ゆっくりと起き上がって、君が最初に発した言葉は僕の汚れを指摘した。そのせいでごくりと飲み干してしまう。勿体ない。
君から出た綺麗なのが、僕を汚したんだ。当たり前のように。
汚すのは僕の役目だって言うのに。困った子。愛しい子。憎らしい子。

そうして、自分から、僕の頬を舐める君はどこか少しおかしいのだろう。自分の綺麗さを知らないのだろう。僕の汚さを知らないだろう。

本当の愛を、恋を、まだ知らないのだろう。

熱しか感じられない深紅が、白を掬い上げる。それすら官能的で、くびれた腰を掴むと期待を孕んだ君が笑った。また笑う。楽しい事なんてあっただろうか。無様な男の恋慕を見せ付けられて、滑稽だと?

「オレをこれ以上喜ばせて、どうしたいの」

首を包むように回された腕と、最初と同じ、耳を壊す甘美な囁き。
どこまでも卑怯な恋人を掻き抱いてまだ始まったばかりの夜。

END



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