ゆめのなかでいつもあなたとあるいていた。

おかしな夢で、どこまでも際限なく広がる水の中でも呼吸は出来た。あなたが隣にいるものだから、別の意味で酸素は足りない気がしたけれども。
手で、水を、揺らす。纏った衣服も別段重くはない。すい、すい、と。あなたの前にあるものを退かしていく。小さな泡がいくつも産まれては消えた。ゆっくりと、彼岸花を溶かした赤。あなたの瞳と髪。そのまま、燃えて逝ってしまわないか。いつでも気に病んでいる。ありえないと、笑われてしまうだろう。きっと。しかし実際、こちらの、内側を爛れる程焼いてしまったのはあなただ。人目につかない、奥の奥の、背骨とも、腰骨ともとれる位置にある恋心を、すっかり燃やし尽くしてしまったのは、間違いなくあなただ。悪いのは、己だけれども。
もっと美しいものから、色を盗んで、轟々と強くあり続ける暴力的な朱に心酔して居ると伝えたい。心では思うのに、脳にはただただ、墓地へと続く道中の、寂しく咲いた死人花が浮かぶ。相思華とも呼ばれているらしいが、負のイメージの方がやはり先行した。一緒の墓に入りたいと、この時、漠然と思ってしまってやり切れない。共に歩む明るい未来を想定すべきであるのに。加えて、己はまだ、現実世界であなたと、ただの知人でしかない。幻想を胸に抱くのは兄の方が圧倒的に得意だ。
何故だろう。置かれている状況は幸福である筈なのに、寒々しい。泣いている訳でもないのに、歪んでいる視界のせいだろうか。そうだ。今なら、あなたを前に泣いても気付かれはしない。手も肩も触れそうな距離にいるのに、顔だけは、見てくれない。こちらがどれだけ近付いても拒絶しない代わりに。
泣いても、いいでしょうか。ああ、この水は、あなたを想って流すに流せなかった、涙なのかもしれません。負った火傷から零れた血も、混ざっているかもしれません。涙も血も、同じ成分なんですよ。体内を占める水分が、あなたによって、変えられて、失われて行きます。納得がいきました。無表情で冷酷だと、一部の人が言います。そうではありません。あなたに感情の全てを捧げているんです。微塵も、ご存じないでしょう。そうですね。それがいいんです。そこがいいんです。こちらに目を向けないあなたが、欲しいんですよ。矛盾しているかもしれませんが、しがない、願いなんです。

「みことさん」

この人を好きになってはいけないと、誰も教えてくれなかった。

あしたもどうかわたしとあるいて。


END


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