ぐちゅり、と押し込まれたチョコレートが、媚薬代わりだと、ウェーブのかかった落葉色の髪をした男は嗤う。この言葉は嘘である、と、直感的に夕焼色の長髪にした男は理解した。糖分過多な食物を好まない自分への嫌がらせであるとも同時に。自分にとって最悪な選択肢ばかりをこの男は選ぶのである。出会ってこのかた、不快な思いをしなかった事の方が珍しい。

肉厚な舌は、毒を運ぶのに最適であった。互いの咥内の熱で蕩けた固形物は美しい薔薇の名前が付けられていたのに、今や、二人を結ぶ卑猥な汚物へと姿を変えてしまったのである。どろ、どろ、泥、で、あろうか。砂と土と水が混ざって。
至極、心苦しい、と、長髪の男―神宮寺の心は掻き乱される。慣れない甘味は、初めてスポットライトを浴びた時の昂揚感と緊張感のどちらをも脳裏に引き寄せる。耳元で、ぢぢぢ、煙を揺蕩わせるタバコが開演のベルに酷く似た音を発しているのも記憶を呼び覚ます要因のひとつになっていた。こういった、すべてが、計算であると思うと小刻みに肩が揺れた。決して、口づけに酔い痴れているからではなく。純粋に本能へとぶちまけられた、真っ黒な苦味。

対して、ウェーブの男―寿は、大して面白くもなさそうに唇を重ねていた。閉じられた瞳を額縁のように彩る睫毛は長く、苦痛によって蠢くさまを見ながら雫でも散りばめればより過度な美麗を放つのだろうかと、紫煙を吹き込みながらぼんやり、と考える。
甘い。こうやって嫌がりながらもこの腕の中に納まってしまっている若さ。愛情を求めるあまり、目の前に差し出された罠に飛びつく必死さ。何もかもが気に食わずに、体の奥底へ、唾液まみれの劣等感が転がり落ちていく。どことなく、彼とは、相容れないのに似ている、と。嫌悪感で死にそうになりながら、ようやく距離を作った。短く繰り返される呼吸は扇情的で、そこだけは唯一悪くない。二酸化炭素がひしゃげたハート型だ。

「レンレンはさ、こうやってぼくのそばにいるじゃない。物好きだよね」
「お互い様だと思うよ」
「はは、何言ってるの〜」
「ブッキー、知らない訳ないだろう」

虚無感。二人を包む。夜風は別れを思わせたが、不思議な事に、二人はそれを示唆する言葉を口にしない。場末のスナックで流れている、哀愁漂う歌謡曲と瓜二つの恋慕であるから。
どうやって、元の形に戻せばいいのだろう。臓器を殺す副流煙と、カカオばかりのチョコレート、どちらも応えてはくれないのだから、二人で導き出さなければいけないのに。
乾き切ったふれあいの先に未来の死骸が見えていた。おわりにしようの一言で救済出来たかもしれないのに、いまだに、視界の端にちらつかせながら接吻の嵐。

こんな不毛も悪くないだろう?カラカラ、空回り、殻舞わり、きみのきらいにぼくはなりたい。

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