散々な帰宅

――当機は間もなく宮崎空港に着陸いたします。
  ランプが点灯している間は席にお着きになったうえで、シートベルトをお締めください。

そんな機内放送を耳にして、彼女はふと窓の外を見やった。

眼下には海岸線と、それに沿うようにして茂る松の木々。
そして遠目に市内を流れる大淀川と、その河口の津谷原沼――通称タンポリなるため池も見えている。

今、彼女が乗っている飛行機はゆるやかに高度を落とし、今にも真下の滑走路へタイヤをつけようとしていた。










南国トロピカルな雰囲気と"ようこそ宮崎へ"の文字に出迎えられ、彼女――黒木 識はほっとした。

『(故郷は相変わらずの様子らしいな)』

数年ぶりの帰郷だ。
今までに何度も見たことのある景色だとしても、懐かしく思える。

荷物を受け取り、外へ出てみれば、"南国"の名に相応しく、太陽がギラギラと照り付けていた。

識はとりあえず近くのタクシーに乗り込み、とある住所を伝えた。
すると運転手は気だるげに周囲を見回し、車を発進させる。

道路には、多くの車が、ただでさえ細い歩道を圧迫するかのようにぎっしりと詰まっている。
そして、その歩道を、自転車に乗った老人が危うげなハンドル捌きで走っていった。

道路の傍には時折、神社の境内のこのであろうか、こんもりとした森が顔をのぞかせ、日の光を受けてみずみずしく輝いていた。

そんな景色にさえ懐かしさを覚え、自然と口元がほころぶ。

タクシーは田畑の続く郊外を抜け、ようやく街の端へと入っていった。

ごみごみとした界隈には、いまだ四月にもかかわらず、暑気が立ち込めている。
その中を暇を持て余しているらしい学生たちがぶらぶらと所在無さげに彷徨っていた。

そして、タクシーは大通りを曲がり、住宅街へと入り込む。
それから、奥まったある区画で行儀よく停止した。

止まったタクシーの傍にあったのは、まさに"豪邸"と呼ぶに相応しい家屋だった。

『ありがとうございました』

識は運転手に礼を言い、賃金を渡す。

すると、先ほどの気だるさは何処にいったのか、運転手は愛想よく笑い、「荷物をお運びしましょうか?」と言い出す始末。

『いいえ、結構です』

識は言うが早いが荷物を自分で取り出し、さっさと門の方へ歩きだす。

門柱に掲げられた表札には、荒々しく、だが達筆に"黒木"と彫り抜かれている。
門扉に手をかければ、案外すんなりと開いた。

踏み込んだ庭は、誰かの手が入っているらしく、綺麗に整備されている。
生垣として植えられたベニカナメモチ。
西方に並んで植えられたシマトネリコもモッコクもアラカシ。
南西に佇む椿の木、そして白山茶花。
今は寂しい家庭菜園と、その隅のアロエベラ。
庭一面を覆う青々とした芝生……。

冗談と思えるほどに昔のままだ。

『(昔、だなんて冗談じゃないけどね……)』

識は庭を一瞥すると、玄関へ向かって石畳の道を歩んだ。
識の目の前を二匹の蝶が螺旋を描いて通り過ぎていった。

大量の荷を抱え、ようやく玄関に辿り着く。

鍵を回し、開いてみれば、やはりここも手入れ済みらしく、気持ちのいいほど軽やかに扉は開いた。

『(さて、久々の帰宅だ……)』

薄暗い室内へと足を踏み入れた瞬間、

――チャキッ

「貴様、この建物の所在と目的を吐け。
 返答次第では斬滅する」

そんな不穏な台詞とともに、首元へ冷たいものが宛がわれた。








――――――
あとがき

こちらは豊臣軍逆トリです。
後から暗とか左近とか入れるかもしれません。

タイトル通り"家族"をめざすお。


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