お互いについて知りましょう。A

識が手招きすると、派手男は、はいはーい、と軽い調子でやってきた。
紫の男と並んでしゃがんでいる姿を見ると、なんとなく大型犬が二匹いるような錯覚に陥る。

識は、楽な格好でどうぞ、と前置きして、二人に尋ねた。

『すみませんが、貴方がたの名前と、知っていればでいいのですけれど、向こうの彼らの名前を教えていただけませんか?』

すると、派手男は人好きのする笑顔を浮かべ、うなずくと、

「俺は前田 慶次!風来坊ってよく言われてるよ。
 いろんなとこを今まで廻って来たけど、識さんとこみたいな家は見たことないな。
 ま、取りあえずよろしくね。
 はい次、鬼の兄さん」

鬼の兄さん、と呼ばれた紫の男は、男らしさを感じさせる笑みを見せ、

「俺は長曾我部 元親。西海の鬼とは俺のことよ。
 で、この部屋の中だけでも、随分いろんな絡繰りみてぇなのがあるが……、例えばアレとか、いったい何に使うもんなんだ?」

部屋を見廻し、手近にあったエアコンを指さした。

『(……なるほど工学系男子ですねわかります。
  それにしても、エアコンを知らないとは……。
  まぁ、それはさておき、)心配しなくても、家電……家の中の絡繰りについて分からないものがあるのならば、説明して差し上げますよ。
  それで、他の方々のお名前も、知っている範囲で構いません、教えていただけませんか?』

あぁ、とうなずいて、紫の男――長曾我部 元親は緑の男を指さした。

「あいつは毛利 元就。
 中国を治めてて、いつも日輪日輪ってうるせぇな。
 しかも、戦のときは卑怯な作戦を立てやがる嫌な奴だぜ。
 俺のところとは隣同士だからよく会うが、その度に馬鹿にしやがんだ」

そう言って口を尖らせる彼に、腐れ縁なのか、と推測する。

『(戦のとき……か。彼も武将気取りか)
 それじゃあそのお隣に座ってらっしゃる方は?』

「ああ、その隣の包帯のやつが大谷 吉継。
 あっちで家康に飛びかかっている石田 三成の腹心で、毛利とは仲が良いらしいな。
 あいつもなかなか嫌な野郎だ」

言葉の選び方は控えめだが、何だかマイナスの感情を感じる。
あまり得意なタイプではないのだろう。

『(つまり、あの特徴的な前髪が石田 三成で、黄色パーカーが徳川(?) 家康ということか……)
 えっと……あちらにいるのが、石田 三成様と徳川 家康様で間違いございませんか?』

そう言ってじゃれ合っている二人を指し示すと、元親が、そうそう、とうなずく。

「ああ、黄色いのが家康で、藤色のが石田だな。
 それにしても……」

と、元親はクツクツと笑い始める。

「いや、悪ぃな……あいつらが"様"って呼ばれてるのを目の前で聞くと、なんかおかしくってよ」

はぁ……?、と曖昧な声を出しつつ、残りの人員についての説明を求めると、派手男――前田 慶次が説明役を買って出た。

「えっとね……あっちで口論してる二人は甲斐の武田軍の所属だね。
 赤い方が"虎の若子"真田 幸村で、忍びの方は、武田忍軍の長、猿飛 佐助。
 猿の兄さんはどうも虎の若子に手を焼いてるみたいだね」

彼の言葉通り、真田 幸村と猿飛 佐助の口論は、何だか母子喧嘩に似ていた。

次に、青い青年と極道風の男を指して、

「あの二人は、奥州の双竜で名高いよね」

と言った。

だが、識にはさっぱり分からない。
日本史の授業に、そんな通り名など、いちいち出てきたりはしないのだ。

『すみません……その……浅学なもので』

ぼそぼそと答えると、慶次は少し眉尻を下げて、識さんって随分と箱入り娘なんだね、と言って、説明を続けた。

「青い方が"独眼竜"、伊達 政宗。
 で、その隣に立ってる、強面のお兄さんが"竜の右眼"、片倉 小十郎だね
 奥州は彼等を中心にしてまとまってるし、良い国主みたいだよ」

これで分かってもらえたかな?、と言って慶次は首を傾げる。

やっぱりそういうところも大型犬に見える。

しかも長い髪がサラサラしていて、綺麗だなぁ、なんて思っていると、キキッ、と声を上げて小さな猿が顔を出した。

『……!!』

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