お互いについて知りましょう。@

そういえば、まだ自己紹介が済んでませんでしたね、そう言って識はその場に正座した。
正直、フローリングでの正座はつらいが、仕方あるまい。

『初めて御目文字仕ります。
 私は女の身で医の道を修めております、黒木 識と申します』

すると、特徴的な前髪をした青年が、何ッ!!?、と識を振り返った。

「では、貴様は刑部の病を治せるのだな?」

何処となく必死そうな表情に、友人か……、と関係を推量する。

『えぇ、検査……調べてみなければなりませんし、多少時間はかかりますが、治すことはできますよ。
 もちろん、歩くことができるようにすることも可能です』

「本当か!?喜べ、刑部!
 貴様の業が治ると言っている!
 それに、また歩けるようにもしてくれるそうだ!
 悪いことは言わん、貴様は此奴の元に逗留しろ!」

顔を輝かせる彼に、しかしなァ、三成よ……、と言って浮遊男はこめかみを押さえた。

「ヌシは此奴を信用しすぎよ、シスギ。
 もしも出まかせを言うておれば、ワレの病は殊更に悪くなってしまうかもなァ」

「なっ……」

勝手に盛り上がり始めた二人に、ごめんだけどさぁ……、と迷彩男が口を挟んだ。

「盛り上がるのは結構だけどさ、石田の旦那、
 俺様たちが聞きたいのはそう言うことじゃないわけ。
 だから、静かにしていてもらえませんかね〜。
 ほら、続きをどうぞ、黒木 識、サン?」

あからさまに馬鹿にしたような流し目に、識は少々苛立ちを覚えたが、そんなことはおくびに出さず、いっそ微笑むくらいの気持ちでいた。

『それじゃあ、続けさせていただきますね。

 まず、どうしてこの家に貴方がたがいらっしゃるのか、私には全くわかりません。
 私自身、貴方がたとの面識はありませんし、――これは私の家族も同様でしょう――
 貴方がたをここへ連れてくる理由もありません。
 逆に尋ねますが、貴方がたこそ、どうしてここに来たのか、心あたりがあるのではございませんか?』

逆に尋ね返すと、迷彩男が剣呑な眼差しを向けてきた。

「聞いてるのはこっちなんだけど。
 俺様達だって心当たりがないから聞いてるんだよねぇ。
 だいたい、ここはアンタの家なんでしょう?
 知らない女の家にこんな忍べない奴ら連れて来ると思うの?」

『(忍べない奴ら……ねぇ。
  まるで自分は忍べるとでも言うような口ぶり……忍者気取りか)』

無言で迷彩男を観察しながらそんな類推をしていると、アンタねぇッ!?、と苛立ったように迷彩男がローテーブルを叩いた。

そんな迷彩男の行動に、佐助!!と赤い青年が叫び声をあげた。

『(佐助?……としたら、苗字は猿飛?……まさかね)』

改めて、今までに出て来た名前を整理すると、なかなか不思議なものだ。

赤い青年は、真田。
有名な者を挙げれば、真田 幸村がポピュラーか……。

迷彩男は、佐助。赤い青年を"旦那"と呼んでいることや、忍者気取りの言動から察するに、随分と猿飛 佐助に憧れているのだろう。

極道風の男は小十郎と呼ばれていた。
現代にはあまりいない名前だ。
おそらく彼の祖父母あたりが片倉 小十郎を踏まえて名づけでもしたのだろうか。

そして、特徴的な前髪の青年。
三成、と呼ばれていたが、最初に思い浮かぶのは、やはり、豊臣 秀吉の忠臣だったという石田 三成だろう。

それから、浮遊男は刑部。
律令制が施行された時代に、裁判と刑罰の執行を執り行った刑部省での役職に因んだ呼び名か。
業病や癘病にかかっていたという点を鑑みれば、刑部少輔、大谷 吉継が思い浮かぶが……なかなかにマニアックだ。

あとは、だれを呼んだものか分からないが、前田、そして家康。

何かと戦国武将みたいな名前が多いが、そういう新手のサークルだろうか。

完全に思考に溺れていた識がふと気が付くと、目の前で大きな掌がひらひらと振られていた。

「おい、アンタ、大丈夫か?
 さっきからあんまりにも静かにしてるから……」

心配そうに眉尻を下げる、紫の衣装の男に、識は、すみません、と謝って、周囲を見廻した。

赤い青年と迷彩男は、まだ口論を続けており、
浮遊男は、緑の男と並んで耳をふさいでいる。
青い青年と極道風の男は値踏みするように識の方をみており、
その向こうで特徴的な前髪の男は、黄色いパーカーの青年とじゃれており、
紫の男は識の目の前で(´・ω・`)ショボンとしており、
それらの輪から少し離れたところで派手な格好の男が所在なさげに佇んでいた。

『(本当に何なんだろう……この人たちは……)』

考えても埒はあかなそうだ、と識は首を振ると、困った表情の派手男に手招きをした。


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