不法侵入は犯罪です。A

予想外の言葉に識は、はぁ?、と素っ頓狂な声をあげ、次に顔を顰めた。

『すみませんが、言っている意味を理解しかねます。
 新手の強盗なのでしたら、玄関の修理代と命以外なら何でも差し上げるので、お引き取りください』

「あ”ぁ”?誰が物盗りだと?
 ふざけるのも大概にしろよ」

『じゃあ、貴方たちは何なんですか?
 どこかの組の方ですか?』

「てめぇ、黙って聞いてりゃ……」

どうしても噛み合わない会話に苛立つ男。
完全に刀を持つ手がプルプルと震えており、切りかかりたいのを抑えているのがわかる。

『(あー、そろそろ殺されるかな……)』

そんな考えが頭を過ったその瞬間、

「待ちな、小十郎。
 ちったぁCool Downしやがれ。You see?」

言葉の端々に流暢な英語を挟みながら、青い衣装を纏った青年が居間から現れた。
青い青年は識の傍まで寄って来て、Hmm...と識を眺めまわすと、

「ったく……よく見りゃあ、このLady、武器も持ってねぇじゃねえか。
 刀下げろ、小十郎。
 こんな手弱女に負けるお前でもねぇだろ?」

と、男を窘めた。

すると、男は、わかりました、と大人しく刀を下げる。

OK、とつぶやいて青年は識の手を取った。

「俺の従者が悪かったな。
 ちっとばかし俺たちの話を聞いてほしい。
 自分たちでも何が何だか分かんなくて困ってんだ」

先ほどに比べれば、幾分か穏やかな聞き方に、識は少しだけ安心を覚える。

そして、青い青年は、紳士然として識を居間へエスコートした。
もちろん、庭先で口論する赤い青年と迷彩男にも声をかけてから。

「おい、真田、猿、そろそろ戻って来い。話だ」









居間に入った瞬間、識は眩暈を覚えた。

なんとなく、聞こえた声から予想はしていたが、庭先で口論していた二人と、青い青年とどうやらその従者らしい極道風の男を抜きにしても、居間には六人の男たちがいる。

『(合計で十人……多いな)』

ここで戦ったとして、勝てる見込みはまず無い。
例えナイフを振り回しても銃を乱射しても勝てる気がしなかった。

何せ、十人全員が男性で、その手には、明らかに殺傷能力のありそうな武器を持っていたからである。

しかも、改めて彼らの格好に注視すると、何かがおかしい。
目立つ色味をしているというのもあるのだろうが、どうにもコスプレっぽいのだ。
数人の衣装に入っている、戦国武将の家紋が、それっぽさを助長しているようにも感じる。

『(これは間違っても戦いに着るようなものじゃないだろ……)』

識は呆れたように、腹や胸元を露出した連中を見やった。

『(……しかも、あの男どうやって浮いているんだ?)』

約一名、重力法則を無視している男をまじまじと観察する。

すると、その男はヒヒヒッと不気味な笑い声をたてた。

「コレ、どうした?女子や?
 ワレに巣食う業が珍しいか?
 ワレを蝕む籟(らい)が恐ろしいか?」

『……業?籟(らい)?……ああ、ハンセン病のことですか?
 今では確かに珍しいですが、恐ろしいとは思いませんよ。
 良かったら、治療しましょうか?』

単なる好意でそう言ったのだが、彼はそれを聞いて爆笑した。
カッと目を見開いて笑う様子は、正直言うと、かなり怖い。

そんな浮遊男の様子を横目に見ながら、緑色の衣装の男が、フンッ、と鼻を鳴らした。

「話を逸らすな刑部。
 そして貴様も、不用意なことは口にせぬことだな。
 業を治した者など、先にも後にも居るまい。
 たとえ医者であろうと、貴様が癒すとでもいうならばせいぜい訳の分からぬ薬を盛って此奴を殺すのが関の山であろう」

そう嘲笑するような笑みに、識はカチンときた。
仮にも、現役の医者に言うことではないだろう。

ふぅ、とため息をついて口を開く。

『そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね』




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