お互いについて知りましょう。B

慶次の肩のあたりからピョコッと顔を出したのは子猿だ。
首にしめ縄のような首輪をしており、くりくりとした目が愛らしい。

目を丸くする識に、慶次は、ゴメンゴメン、と謝ると、子猿を取り上げた。

「こいつは俺の友達の夢吉。
 ほら、夢吉、識さんに挨拶!」

すると、子猿の夢吉はひょいと片手を上げて、よう!、と言うように振った。
試しに手を伸ばしてみれば、とことこと腕を這い上がってきて、肩のところへやって来る。

――キキッ?

どうしたの?とでも言うように首を傾げる姿に、識は思わず笑みをこぼした。

『か……可愛い……!!』

それにつられるようにして、慶次も笑う。

「夢吉を気に入ってもらえたようでよかったよ」

しかし識の耳にはさっぱり入らず、

『可愛い……飼いたい……いっそ食べてしまいたい……』

小さな頭を指で撫でながらぶつぶつとそんなことを言っていた。

だが、そんなことを聞いてしまった慶次は気が気ではない。

「ちょっと……識さん!?
 夢吉を食べられちゃ困るよ〜(汗」

しばらく放置されていた元親も、少し慌てた様子で、

「可愛いからって流石に子猿を食っちゃダメだろ……」

と識の手から夢吉を取り上げた。

あぁー……、と残念そうな声をあげる識を見て、元親は眉尻を下げるものの、識の肩に手を置いて、

「ほら、こんなことしてる場合じゃねえだろ」

そう言った瞬間、識ははっと我に返った。
夢吉を見てキラキラしていた表情が一瞬で元の無表情に戻り――あまりのギャップに元親と慶次は吹き出しかけたが、本人のために黙っておいた――、さっと辺りを見回すと、一部破壊活動に及んでいる面々を止めに走りだした。

『ちょっと!何をなさっているのですか!?』

何故かぶち抜かれている居間と食堂をつなぐ扉と壁、
何故か縦にすっぱりと割れたダイニングテーブル、
何故かずたずたになっている戸棚と散乱した割れた食器……。
どうしてこうなった……としか言いようのない状態の食堂で取っ組み合いをしている三成と家康が、双方動きを止めて識を見た。

その言葉で家康は状況に気づくと、申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「すまん……ワシは三成を止めようとしていたのだが……」

一方、

「何を……だと?
 決まっているだろう?
 私は家康を斬滅しようとだな……」

悪びれることもなくそう言った三成の手には抜き身の刀が握られている。

何時の間にか、周囲には他の八人も集まっており、

「全く……派手にやりおってナァ、三成、そして家康。
 この女子、今にも泣きそうよ、ナキソウ」

吉継の言う通り、識は拳を握り、ぷるぷると震えていた。

「Ah〜……てめぇら、Lady泣かせるなんて最低だな」

政宗が敢えてあおるようにそう言うと、家康が慌てて識の傍へやってくる。

「ほ、本当にすまない!識殿!ここはちゃんとワシらで片づけるから……。
 ほら、三成!お前も謝らないか!」

そう言って家康が三成の方を向くと、

「うるさいッ!!」

そう叫びながら三成が刀を振り上げた。

全員があっと声をあげる中、両者の間に一つの影が滑り込んだ。

危ねぇ!!と叫んだのはいったいだれだったのか。

気が付くと、三成の身体が宙を舞っていた。

そしてそのまま三成は居間の床に転がり落ち、ローテーブルに頭を打って止まる。

今何が起こった?

全員が首を傾げるなか、識が家康の腕を掴む。

「あのぉ……識殿?」

おずおずと尋ねる家康。
識の手には、三成の刀が握られており、なるほど、彼女が三成を投げ飛ばすついでに刀を奪ったことがわかる。

家康を引きずって居間まで戻ってくると、ちょうど気が付いたらしい三成のそばまでやってきて、

『二人ともそこで気を付け』

かなり冷えた声音でそう命じた。


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