第十三話 発令

地下都市には雨が降らない。
昼の照明設定のなされた司令本部前広場は野外であるにも関わらず、大きな室内競技場のようであった。

正面には四つのエレベーターが並ぶ大きな入り口。
"UNCF"と錨が青色で描かれた白い建物に、壁のような巨大なスクリーンが青く輝く。
広場周辺には広報用の大型モニターが数基設置されており、一段高くなった舞台の上には極東管区の行政長官である藤堂平九郎、軍務局長の芹沢虎鉄、国連宇宙軍の宙将にして空間防衛総隊司令官を務める土方竜、
そして、国連宇宙軍宙将および連合宇宙艦隊司令長官の肩書を持ち、今回、新たな役職を拝命するであろう沖田十三といった極東管区司令部のそうそうたるメンバーが座っていた。

広場には茶、紺、緑とさまざまな制服を着た軍人をはじめとするさまざまな業種の者たちが集められており、年齢や性別を問わず、総勢千人近く集められている。

識はその中に紛れるようにして壇上を見据えていた。
目立たないようにと黒いコートを選んだものの、紺の制服が大半を占めるこの場では逆に浮いているような気がしてならず、どうにも落ち着かない。
しかし、そんなことに気を取られる人間は少ないようで、むしろ、人々の関心は、今回の大規模な召集の中身にあるようだった。

「いよいよ発令されるのかなあ」

「地球脱出の"イズモ計画"だよな?」

「でも、地球を見捨てるなんて……」

そんな何も知らない者たちの囁きについ笑いがこぼれる。

席を立った沖田がマイクの前に立つと、自然とさざめきは止んで、全員が背筋を正し、壇上に注目した。

沖田十三は顎ひげをたくわえており、すっかり白くなった髪、そして顔に深く刻まれたシワが年齢を感じさせる。
だが、制帽の影からのぞく鋭い光を宿した目や、どっしりと構えたその態度が、歴戦の将としての威厳を表していた。

『(この人なら信頼できるかな……)』

識の口元が弧を描く。

凡愚が上に立つのならばどうしようかと一時は考えた。
だが、やはりこの作戦は失敗できないのだろう、国連宇宙軍最高の将をトップにするとは思い切った判断を下したものだと識は感心する。
それと同時に、手薄となるだろう地球の防衛について思いを馳せた。
いくら、沖田と双璧を為す土方竜を地球に残したところで、肝心のクルーはほとんどこの作戦に動員されるはず。
だとすれば、作戦を決行した後の地球はどうなるかということも考慮しなければならないはずだ、と識はひとり思案した。

『(でも……そんなことを私が考えてどうにかなるわけでもない)』

首を振って余計な考えを振り払い、何かが上映されるらしいスクリーンに目を向けた。

「まず、これを見てもらいたい。
 これは先日の"メ号作戦"において回収されたメッセージ画像だ」

沖田の言葉とともに、スクリーンにCGのラインが複雑に絡む映像が現れ、美しい女性の声が広場に響き始める。

「私は"イスカンダル"のスターシャ。
 あなた方の地球は、今まさにガミラスの手で滅亡の淵に立たされています。
 私はそれを知り、一年前、私の妹のユリーシャに、次元波動エンジンの設計図をたくして地球へ送り出しました」

響きの似た名前から推測は出来ていたが、どうやらメッセージの送り主と、一年前に地球に来訪した異星の姫君は姉妹だったようだ。

映像には優美なデザインの宇宙艇や、エンジンの設計図と思われる図面が映っていた。
やがて、かつての地球のような青く輝く星が映し出され、それに重なるようにして、白と紫のドレスを着た金髪の女性が現れる。
その女性――スターシャは憂いで濡れたような黄金の瞳でこちらを見据え、凛として言った。

「あなた方がもし、それを理解し完成させていたならば、イスカンダルへ来るのです。
 私達の星には、汚染を浄化し惑星を再生させることが出来るシステムがあります」

と、ここで彼女は少しだけうつむく。

「残念ながら、私がこれを地球へ届けることはもう出来ません」

残念ながら、というのが本心なのかは識にとって疑わしく思われたが、その仕草のみを見れば、本当に力がおよばないことを悔いているようにも見える。
再び視線を上げ、スターシャは続けた。

「今回新たに次元波動エンジンの起動ユニットである"波動コア"をもう一人の妹、サーシャの手であなた方に届けます。
 私はあなた方が未知の苦難を克服し、このイスカンダルへ来ることを信じています」

私は"イスカンダル"のスターシャ……と再び冒頭に映像が戻って来たらしいところで映像がフェードアウトする。
やはり識の予想通り、計画が変更されたことへの通告がなされなかったことにショックを受けていたらしい人々だが、映像を見て、この荒唐無稽とも思える計画が本物らしいと悟ったようだ。

「一年前、地球はイスカンダルからの技術供与を受け、次元波動エンジンを搭載した恒星間航行用の宇宙艦を既に完成させている」

"恒星間航行"というワードにクルーは色めき立つ。
そもそも地球人は太陽系から外にまともに出ることすら叶わない程度の技術しか持っていなかったのだ。それなのに、一年でそこまで発展したという事実には驚くほかないだろう。

どよめく人々に構わず、沖田は力強く告げた。

「その名は"ヤマト"!
 我々の任務は、そのヤマトに乗り組み、イスカンダルから地球を浄化、再生するシステムを持ち帰ることである!」


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2015/4/3

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