第十二話 決意

"電子攪拌(スナーク)"を併用しての調査の後、"イズモ計画"改め"ヤマト計画"の全貌を知った識は、"プール"から出た後、フェイスマンに結果を報告した。

「やはり計画の方向性は変わっていたか……それで、君は、この根本的な作戦変更を知ってなお、任務に臨むというのかね?」

フェイスマンからの問いかけに識は頷く。

『ええ、決して成功率は高くない、半ば賭けのような計画です。
 しかし、召集された以上はこの計画の行く末が知りたい。
 ゆえに乗艦を決意いたしました』

ふむ……と思索に更けるフェイスマンが目配せした先には、ホログラムの戦艦が浮かんでいる。

昨今の宇宙への航行に用いられるような紡錘型のそれではなく、かつて大海原を行き来していた戦艦によく似たフォルムのそれ。
船首で大きく口を開けているジェットノズルにも似た孔は機密となっている新兵器だろうか。
甲板側に主砲をはじめとした武装が集中しており、逆に第三艦橋のある船底側には乏しいという点が少しの不安を煽るが、何か考えがあってのことなのだろう。
こういった船の設計に関して知識の乏しい識は敢えて考慮すべき点から外し、頭の片隅に留める程度にしておく。

ホログラムに付随するように様々なスペックの表記が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しているが、それらをざっと見ただけでも今までに見たこともないシステムがいくつも導入されていることがわかった。

フェイスマンはそれらを厳しい眼差しで見つめ、そして、安堵したように笑う。

「なるほど、人智の集大成ともいうべき戦艦だ。
 惜しむらくは、我々がその設計および装備に関して協力出来なかったこと……まあ、この場合は末端を担うことが出来ただけでも僥倖とすべきだろうか」

フェイスマンの純粋な称賛、そして更なる強化の可能性をほのめかせる発言に驚くとともに、識は気を引き締める。
彼の言う"末端"はおそらく自分を指しているのだ。

だが、そう堅くなることもない、とフェイスマンは言う。

「君は今回の任務を"賭け"と表現したが、まさにその通りだろう。
 だが、不利な賭けとはいえ、賭けに"絶対"などないのだよ。
 低い確率とはいえ、必ず勝利する可能性はある。
 ここで問題となるのは……」

『いかにその確率を引き当てるか……そうですよね?』

言葉を引き継いだ識にフェイスマンは満足そうに頷いてみせた。

「流動型知能(デジタル)と結晶型知能(アナログ)を内包する我々の脳は、近似値を割り出すことを可能にした。
 つまり、正確な数字を必ず得られないという不便性はあるが、逆に言えば数字に対する絶望を抱えずに済んだと言える」

『ゆえに、確率を引き寄せることだって可能になりうる。
 そういうことですか?』

その通り、と呟いてフェイスマンは識を見据えた。

「君には"電子攪拌(スナーク)"を与えた。そして、良き友であるケントニスを。
 君たちが力を合わせれば、彼らにも負けないほどの力を発揮出来る。
 私はそう信じているよ」

いくらなんでも買いかぶりすぎだ、と識は思った。
だが、それだけ期待をかけられているというのは、なんだか誇らしい気持ちにもさせる。

けれども、識はあえて落ち着き払った態度でフェイスマンに告げた。

『参加を表明した以上、私はただ、与えられた任務をこなすのみです』







――――その日、"イズモ計画"参加メンバーへの召集がかけられた。









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2015/1/12

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