葛城穣礼は意外とやる子。

時は過ぎ去り、放課後。

とりあえず人が捌けてから教室を出ようとのんびり教科書を片付けていた穣礼の耳に、男子たちの噂話が聞こえた。

「なぁ、最近あそこのゲームセンターにものすげぇキレイな姉ちゃんが来てるらしいぜ」

「あー、知ってる。
 かなりクールで腕の立つ女だってよ。
 この前もあそこに溜まってる不良をのしたって話だ」

「でも本業は占い師だってよ。
 占ってもらったヤツによれば、すげぇ当たってるってさ」

俺も占ってもらおうかな〜、なんて笑いながら去っていく背中を見つめる。



『腕の立つ占い師……』

《恐らくはソイツがスタンド使いだな》

『まさか、既に追っ手が来たとでも?』

《さぁ?俺たちは何も、DIOに喧嘩なぞ売った覚えもないがなぁ……》

『厄介ね。先に片付ける?』

他の人には聞こえないようにぼそぼそと話し合う。
もし、その占い師とやらがスタンド使いならば、そのうちここへと来るであろう花京院と手を組んでいる可能性もある。
合流すれば厄介なことこの上ない。
先に減らしておくのが得策だろう。

アールは返事こそしなかったが、言わずもがな穣礼の答えを知っている。

『行きましょう。
 場所はゲームセンター、ね』





ウィーーンと駆動音をたててドアが開くと同時に、おもちゃ箱をひっくり返したような光と騒音が目に飛び込んできた。

四つのボタンとレバーのみのシンプルな台がいくつも並んでいるその画面の中は
某配管工が姫君を救う旅に出ていたり、
侵略者を駆逐すべく閃光銃が火を吹いていたり、
唸りをあげるレーシングカーが猛然とタイヤを軋らせながらサーキットを走り抜けたりと
さまざまな世界が映し出されている。

そんなゲームの挙動一つに一喜一憂する人々の様子は、はっきり言って不思議だ

ゲームセンターの一角は休憩所になっていて、まばらに置かれたテーブルと椅子自販機、そして申し訳程度の観葉植物も置いてある。
ゲーム機の置いてある場所とはうってかわって静かで、現在もちらほらと休憩を取る人の姿が見えた。

そんなテーブルの一つに、異様な雰囲気を放つ女が座っていた。
高い鼻梁と厚ぼったい唇がエキゾチックな艶やかさを醸し出し、自然にはおよそ存在しないだろう緑の髪に、一房ごとに色を変えて染めた前髪は、けばけばしくなりそうなものだが虹を見ているような奇妙な調和を感じさせる。
まとうのはアラビア風の衣装でなるほどこの辺りでは見かけないタイプだ。

女はテーブルの上にカードを広げ、少し物憂げな表情で機械と戯れる人々を眺めていた。

『あなた、占い師?』

穣礼は向かいの椅子を引いて堂々と座る
すると女はちらりと視線を投げ掛けて、そうよ、と答えた。
その瞳には少しだけ残念そうな色が見て取れる。
恐らく、ここに来る若い男たちと遊んでいるのだろう。

「占ってあげましょうか。
 貴女には恋占いなんておすすめよ?」

からかうような調子でカードを指し示す女に穣礼は棘のある言葉で対抗する。

『ええ、お願い。
 内容は……そうね、恋占いよりもこれからの運勢の方が気になるわ』

「あら残念……良い縁が見つからなくて困ってるのではなくて?」

『取り換えのきくものよりオンリーワンが好きなだけよ。
 そして……』

あなたみたいに、波風立てて荒らすのは好きじゃないの。
そう言って、不良の持っていたカードを取り出すと女の表情が変わった。

「……何処でそれを手にいれたの?」

押し殺したように訊ねる女の前にそれを叩きつける。
間違いなく、穣礼の持ってきたカードと女が占いに使っているカードは同じものだった。

『朝から襲いかかってきた不届き者のポケットから拝借してきたの。
 このカード、あなたのよね?』

「……そうだと言ったら?」

女はいかにも余裕だと見せかけているが声が微かに震えている。
綻びを見せ始めた女に、穣礼はゴリ押しとばかりに言い募る。

『もちろん、制裁を下すのよ。
 平和な日常ってやつを壊そうとしてるんだもの、罪は重いわよ?』

にやりと口角を上げ、不適な笑みを浮かべてみせる穣礼。
だが、女の反応は……、

「プッ……あっはははははははははは」

爆笑だった。

「平和な日常ですって?笑わせないでよ。
 アンタみたいないかにもイジめられてそうなヤツが言う台詞じゃないわよ」

それは偏見ね、と冷静に返す穣礼。
だが、女は聞こえていないかのように長々と高説を振り撒く。

「まぁ、アンタの惨めな日常よりもねぇ、あたしは今、スリルに飢えてるの。
 どうしてだと思う?ねぇねぇどうしてだと思う?
 ……それはね、"力"を手に 入れたからよ。
 “あの人”のおかげで素晴らしい"力"が手に入ったわ」

恍惚としてしゃべる女に穣礼はしらーっとした視線を送る。

『馬鹿ね、この女……自分からしゃべりだすなんて……』

哀れみを帯びた穣礼の視線に気付かず、女は、まるで舞台上のヒロインのような演説を続けた。

「あたしは今、サイコーに絶好調なの。
 アンタごとき、この私の手に入れたこの力……“幽波紋(スタンド)”で倒してみせるわ!」

びしっ、と穣礼を指差し、高らかに宣言する女。
いつの間にか女と穣礼の座るテーブルを囲むように不良たちが取り囲んでいた。

そのどこか虚ろな表情とぎくしゃくした動きから、なるほど、彼女の能力は人を操るものであることがわかる。
しかもポケットや裾からタロットカードが顔をのぞかせているところから考えるに、女がカードを渡した相手のみに効くようだ。

「やってしまいなさい、アンタたち!
 この女をボコボコにブチのめすのよ」

まるで特撮やアニメに出てくる女幹部の台詞とともに、不良たちは穣礼に襲いかかってきた。

『〈Eleventh Earl of Mar〉!』

すかさず穣礼は自身のスタンドを呼ぶ。
すると彼女の背後に半透明の人型がすっと浮かび上がり、女に向かってバチッとウィンクをかます。

その瞬間の女の顔は見物だった。
自分だけが持っているはずのスタンドを目の前の、散々バカにした小娘が持っていたのだ。

な……な……と唇をわななかせ、怒りとも羞恥ともわからぬ感情に身を震わせる。
もちろん、女の動揺はそのままスタンドに影響するわけで……一瞬動きを止めた不良たちの様子に穣礼はほくそ笑む。

『先に不良から片付けるわよ。
 そうね……あんまり怪我したくないし 木刀なんて用意できる?』

余裕たっぷりにねだれば、お安い御用さと、微笑んで、アールは腕の先をとろけさせた。
でろり、と重たい液体が穣礼の手の中でしなやかでしっとりとした……しかし、その強度はお墨付きの木刀へと変わっていく。
柄に「洞爺湖」だなんて彫ってあるのは彼なりの遊び心だろうか?

木刀を手にした穣礼は水を得た魚、虎に翼なんて言葉がふさわしいくらいに暴れまわる。

殴ろうと振りかぶった腕を打ち据え、
蹴りをいれようとしたその向こう脛を強かに殴り、
アホ面を晒す脳天を面打ち、
体当たりなど仕掛けようものならばその鳩尾を狙って突きを入れる。

スタンドであるアールの手を借りる場面もいくつかあったが十数人ほどの不良を全て片付けると、茫然としたままの女を振り返る。

『ねぇ、どんな気持ち?』

「……え?」

『ねぇねぇどんな気持ち?
 スタンド、自分しか持ってないはずなのに私が持ってるの見てどんな気持ち?』

そう告げ、わざと凄惨な笑み――と穣礼は自負している――を浮かべながら詰め寄ると、女は自棄になったようだ。
床に転がっていた酒瓶を手に穣礼に挑みかかる。

「このっこのっこのぉぉぉおおおおお」

ブンッと全力で振り下ろされる酒瓶。
当たってしまえば大怪我は免れないうえ酒を頭からかぶってしまうだろう。

木刀で弾けばキンッと軽快な音。
しかしかなり重い手応えが手に残る。

「あたしだけがッ……あたしだけが特別なのよッ!!!」

女の手から酒瓶が離れ、穣礼の腕に打撲の痕を残す。
幸い割れはしなかったので余計な怪我は負わなかった。

女をどうにかしたいのはやまやまだが、
ここまで手当たり次第に攻撃してくるのではこちらから攻撃するのは難しい。

「アンタよりあたしの方がずっとずっとスゴいのよッ!!!
 "あの人"に……神様に愛されてるのはあたしなのッ!!!
 ここでアンタたちスタンド使いをぶっ殺して、私は“あの人”とずっとずっと幸せに暮らすの!!」

もはや女児のようなことを喚き立てる女
あたしが、あたしが、と五月蝿かった口は唐突に閉まることになる。

《てんちゅー(天誅)》

締まりのない声とともに、アールが女の背後から手刀を入れたからだ。

どさりと床に倒れ込んだ女を見て、案外あっけなかったな、と穣礼は回顧する。

『まったく……これで一件落着ね』

《To be continued……なんつってね》

その後、ゲームセンターの店長が救急車を呼び、不良とともに女は病院へと搬送されたという。

彼らを負傷させた犯人だが、穣礼の印象がだいぶ薄かったのか、顔は思い出せずじまいだったとか。





『顔覚えてもらえないとかマジで涙目。(真顔)』

《いいじゃん警察に捕まらなくて済んだんだし》



―――――
2015/09/08

本編はここまで

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