葛城穣礼『……なんだか寒気が』
『ごちそうさまでした』
カランと穣礼がどんぶりに箸を置くのと承太郎が二人分のお代を出すのは同時のことだった。
「そろそろ行くぞ」
そうは言いつつも出口で待ってくれている承太郎は、実はとても優しいんじゃなかろうか。
もっと優しくしておけば女の子にモテるのに……
あ、空条くんは既にモテモテか……。
そんなくだらないことを考えつつ、店を後にした穣礼と既に店を出ていた承太郎の前に騒がしい一団が立ちはだかった。
どう見ても高校生には見えない老け顔を見るに、先輩かそれともただのチンピラかだろう。
鉄パイプにメリケンサックにナイフと、明らかに喧嘩仕様の装備ばかり。
それに、一人はボクシングのような体勢まで取っている。だが、その鍛え方からただの気取りというわけでもなさそうだ
男たちは承太郎を見るや、積極的にガンをつけていたが、その後ろに立つ穣礼を見た途端にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「おい見ろよ。
ジョジョが女連れてるぜ」
「カノジョにしちゃあ随分と地味じゃねぇか?
長ぇ前髪に黒縁メガネなんてイマドキの女子高生の格好じゃねーだろ」
「さぁて、この地味子ちゃんは、何処の誰かなぁ?
ジョジョとデートだなんて 取り巻きが知ったら黙ってないぜ」
承太郎そっちのけで、穣礼の悪口を言い始める不良たち。
だが、そんな安い挑発で激昂するほど、穣礼は子供ではない。
不良たちの言葉をまるっと無視し承太郎の顔を見上げると……、
「……やれやれだぜ」
既に怒っていた。
いつもの様子と何ら変わり無さそうだが声のトーンが心持ち低い気がする。
何処でキレたのかしらん、と首を傾げた穣礼に先ほど購入した本を押し付け、承太郎は穣礼に告げる。
「これ持って先に帰りな。
後で俺の家にでも届けといてくれ」
『でも……』
この人数に一人で挑むには流石に無理があるだろう、と、穣礼は思ったのだが、拳をパキパキ言わせる承太郎の表情は、余裕そのものだ。
やはり喧嘩で負け無しというのは嘘ではないらしい。
「早く行け。巻き込まれるぞ」
そこまで言われたら、従わないわけにもいかないので、穣礼は一目散にその場を離れ、承太郎の家へと向かった。
空条邸はここら一帯でも有数の豪邸だ。
人の家などほとんど把握していない穣礼ですらたどり着くことは容易である。
我が子の同級生、しかも女の子が訪ねて来たことに、承太郎の母親らしい女性が随分とはしゃいでいた。
もしかしたら何か勘違いされているかもしれない。
そして、その母親……ホリィさんというらしい……はどうやら外国人らしい。
ハーフならば、承太郎のあの端正な顔立ちにも納得がいくというものだ。
「折角だからお茶でも飲んで行かない?
承太郎もそのうち帰ってくるわ」
だなんてほわほわとした笑顔で誘われもしたが、穣礼は丁重に断ると、承太郎が購入した本を預け、空条邸を後にした。
取り巻きの間でさえ空条邸を訪ねることは御法度なのだ。
誰にも目撃されないうちに帰らなければ、本当に命の危機に晒されかねない。
その晩、穣礼の家に電話がかかってきた
「どうしましょう……穣礼ちゃん!
承太郎が……承太郎が、お家に帰って こないの!!」
喧嘩の後に帰って来ないなんて、ものすごく大変なことのはずなのに、どうしてか穣礼の心は不自然なほどに凪いでいた。
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2015/09/07
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