葛城穣礼の混乱


私は今、人生最大の危機を体験した。
いや……体験したというよりはたった今経験しているところなのだが……。

あ……ありのまま、今起こっている事を話すぜ。

学校内で陰キャラとして静かに過ごしていたと思ったら、いつの間にか学内でも有名な不良(だが女子に大人気なくらいイケメンだ……)に目を付けられていた。

な……何を言ってるのかわからねーと思うが、私も何が起こってるのかわからねぇ。
頭がどうにかなりそうだ……。
夢小説だとか乙女ゲーのイベントだとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……というか今味わってるぜ。



一体、誰に向かって言ってるんだろうと思いつつそこまで捲し立てて穣礼は一息ついた。

「おい、葛城……聞いてんのか?」

目の前には威圧感たっぷりの長身があるわけで……。
だが穣礼にとっては目の前の人物の放つ威圧感よりもその背後から突き刺さってくる女子の視線の方が堪える。

あー、うん、聞いてる。
ばっちり聞こえてましたよ。

声に出すと確実に裏返って恥ずかしい思いをしそうなので、ぶんぶんと首を縦に振っておいた。

そんな穣礼の態度が怪しく見えたのか、
目の前に立つ、この学校内でも有名なきょじn……ゲフンゲフン……不良である空条承太郎は常に身に付けている学帽の下で怪訝そうな顔をした。

ちょっと、そんな顔でこっち見ないで!
私のライフはもうゼロよ!
内心悲鳴をあげるものの彼女の表情筋は一切動いていない。

『今度の日曜日、午前十時に、駅前……でしょ?』

既に震えている声を悟られないように
ボソボソと返すと、何だ、ちゃんと解ってんじゃねぇかと承太郎は安心したらしかった。

「それじゃあ、またな」

颯爽と改造長ランの裾を翻して去るのを確認した後、穣礼は鞄をひっ掴み、周囲の女子に囲まれる前に教室を離脱する。

たぶんあの視線はあれだ。
体育館裏でボコボコにしてやるっていう多大な“殺る”気に満ち溢れてる目。
明日から靴箱とロッカーへの嫌がらせに注意して、出来れば手近なトイレは極力入らず、違う学年のフロアにあるものを利用しなければ……。

そんなことを計画出来るくらいに穣礼はある意味で訓練されている。
伊達に十年近く陰キャラはやってないでござる。

「葛城さんも大変よねぇ」
「ジョジョに目付けられたんですって」
「まぁ……取り巻きが煩くなりそうだわぁ」

なんて会話、聞こえてない。
聞こえてないんだから……(涙目)

自分では涙を流してるつもりだがやはりというべきか、穣礼の表情筋は一切動いていなかった。



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2015/09/07

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