美しい獣

彼女を膝の上に抱き上げ、いつものように向かい合う態勢で抱き合う。
すると、彼女は躊躇いがちにヴィンセントの首筋へと唇を這わせ、やがて、興奮を隠し切れないとでもいうように、ぴちゃぴちゃと音をたてて舐め始めた。

ここまで性急なところを見ると、よほど余裕がないのだろう。
微かに震えている背中を撫でながらヴィンセントはそう思った。
ハッ、ハッと犬のような忙しない息をつきながら自らの首にむしゃぶりついている美しい獣の名を囁く。

「レイディア」

すると案の定、彼女の肩がびくりと跳ねた。
ところが、返事をしないところを見ると、おあずけをくらった犬のようにその欲求と戦っているのかもしれない。

さらさらと指通りの良い髪を指で梳き、優しい手つきで頭を撫でた後ヴィンセントはようやく声を発した

「……いいぞ」

その瞬間、鋭く抉るような痛みがヴィンセントの脳を駆け巡った。
同時に首筋の表面を滑るレイディアの舌の動きが激しくなる。
恐らく、食い破った首筋から流れる血を飲んでいるのだろう。

背筋を走る怖気……いや、この刺激は快感だろうか……それが今まさに倒錯的な感覚となってヴィンセントの脳内を侵す。

「ん……クッ……」

声を抑えながら、そっと、レイディアの背を叩く。
ヴィンセントがこうするのはたいてい、彼女が血を吸いすぎて、自分を殺すのを防ぐための行動だ。

背を叩かれたレイディアは名残惜しげに首筋を貫いていた牙を離し、肌の表面を滴る血に舌を這わせた。

それも終わると、安心したように身体をヴィンセントに預ける。

「少しは落ち着いたか?」

肩口に顔をうずめている彼女に訊ねると返事がわりなのかシャツを握る手に力がこもる。
幼子のようなその仕草にヴィンセントはくつくつと喉で笑い、すがりついているレイディアの手を片方だけ握った。

『?』

すると、レイディアは顔を上げ、不思議そうに見つめる。

ヴィンセントは視線を気にすることなく薄く笑うと、レイディアの手首にキスをした。
そしてそのまま舌を這わせ、うっすらと見える血管をなぞるように動かしていく。
ときおり戯れのように歯を立てるところなんかはレイディアが吸血するときの仕草そのもので、彼女としては、かなり気恥しいのだろう。耳まで真っ赤になっている。

どこか堪えるような表情のその耳元にヴィンセントは唇を寄せ、

「今度は私の番だ」

そう吐息を吹き込むように囁いた。

ついでに、ちゅ、とキスをして耳たぶを食んでやるとレイディアは面白いくらいびくびくと身体を震わせる。

ピアスまで通しているというのに、何故これほど耳が感じやすいのか。
薄い貝殻状のこれにはそれほどまでに快感を拾うような神経でも通っているとでもいうのか。

たっぷりと舐ったそれに、悪戯としてふっと息を吹き込んだ後、ヴィンセントは彼女の首元へと顔を埋める。

先ほど彼女がしたのと同じような仕種で首筋を舐め、甘噛みし……けれども、皮膚を破るほどヴィンセントの歯は鋭くはない。
鎖骨まで這わせた唇で、ちゅうっと音をたてて痕を残すと、ヴィンセントは妖艶な仕草で流し目を寄越した。

「夜はまだまだ長い。朝が来るまでは、
 お前に付き合ってやるとしよう」



――――――
このあとめちゃくちゃ(ry
実際に書いたのは5月ぐらい。

2015/08/30

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