第七話 タークスの魔の手から逃れ
レイディアが教会の屋根裏部屋へと消えたとき、ちょうどドアが乱暴に開かれて一人の男と十数名の神羅兵が跳びこんできた。
スキンヘッドにサングラスをかけた、いかにも厳つい男は、気絶しているレノに駆け寄り、安否を確認すると、教会の中を見回して、レイディアたち三人の姿を探す。
「ふふふ……まだ探してるね」
タークスたちの滑稽な様子に笑みをこぼしながらエアリスが囁いた。
教会の屋根に開いた穴の向こうはスラム街に立ち並ぶ家々の屋根が連なっており、なるほど、これを伝って下りれば外に回れそうだとわかる。
「初めてじゃないな?奴らが襲ってきたのは?」
滑りやすい屋根を慎重に踏みしめながら訊ねるクラウドに、エアリスは「まあ、ね」と曖昧に答える。
「タークスだよ、あいつらは」
ほとんど独り言のようにクラウドは言った。
その口調にはどことなく侮蔑している雰囲気がある。
「タークスは神羅の組織。ソルジャーの人材をみつけだし スカウトするのが役目だ」
「こんな乱暴なやりかたで? まるで人さらいみたい」
率直に感想をこぼすエアリスに、苦笑しながらレイディアが補足した。
『タークスの役目はそれだけじゃないぞ』
驚いたように振り返ったクラウドに、レイディアは、足元気を付けろ、なんて見当違いの注意をしつつ、安定していそうな場所に足を下ろす。
『タークスの仕事は通常の社員には出来ない業務……いわば、体の良い雑用だ。
ちょっとした調査任務からさっきクラウドが言ったようなスカウト、そして、……世間で言うところの、裏の仕事』
「ずいぶんと詳しいんだな」
どこか胡乱げなクラウドの視線を軽く受け流してレイディアは薄く笑みを作る。
『なに、昔のこととはいえ、自分の古巣だ。知らない方がおかしいだろう』
自分の古巣……その言葉にクラウドは目を見開く。
「じゃあ、アンタは……」
が、すべてを口にする前にぴしゃりとレイディアに遮られた。
『想像に任せる。それよりも早くエアリスを家に帰さないと』
しぶしぶ、といった調子で一旦は口を閉じたものの、すぐに、でも……、と話を切り出した。
「どうしてエアリスが狙われる?何かワケがあるんだろう?」
一分も黙ってられないのか……とレイディアが呆れるかたわら、エアリスは、う〜ん……と考え込む。
そして、あ、と顔を輝かせてこう言った。
「わたしソルジャーの素質があるのかも!」
その返答にレイディアは思わずエアリスを二度見した。
ロッドを使うとはいえ、あまり近接戦闘には向かない体格、魔力も生来から回復魔法を修得しているとはいえ、実力者には遠く及ばないだろう。
確かに磨けば光る原石とはいえそうだが、ソルジャーとするには些か頼りない印象だ。
だが、クラウドはそれに気付いているのかいないのか、
「そうかもな。なりたいのか?」
などと聞く始末。
『(クラウドよ、お前は本当にクラス1stなのか?)』
レイディアの疑問をよそに、二人は楽しそうに言葉を交わし始める。
そして、しばらく歩いたところでエアリスが音をあげた。
「待って…… ちょっと待ってってば!」
クラウドとレイディアが振り向くと、はぁ……はぁ……と息をつきながら遅れてついてくるエアリスの姿が。
『大丈夫か、エアリス?』
見たところ、二人のペースについていくだけでも精一杯だったらしく、疲労の色が滲んでいる。
「二人だけで……先に…… 行っちゃうんだもん……」
立ち止まって座り込んでしまったエアリスに、クラウドは、おかしいな……とつぶやいた。
「ソルジャーの素質があるんじゃなかったか?」
そう言って、ふっと笑うクラウドに、もう! 意地悪!とエアリスは頬を膨らませた。
そんな気の抜けるようなやりとりに苦笑しつつ、見守る。
二人は何やら真剣に話をしていたようだが、
「さ、行きましょ! ボディーガードさん!」
なんとなく空元気を振り絞ったようなエアリスに促されるように歩みを進めるのだった。
――――――
2014/12/08
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