Happy Halloween
いつもは灰色に煤けているこの街も、今日ばかりは華やいでいる。
白い布を頭から被った真っ白お化けに、
頭からずり落ちそうなほど大きなとんがり帽子の魔女っ子、
ミイラのつもりか、トイレットペーパーでぐるぐる巻きの子もいる。
そんな小さな“お化け”の誰もが小さな籠を持って、道行く誰もに声をかけていた。
「「「Trick or Treat!!!」」」
そう声をかけられれば、優しげな母親も、陽気な雑貨屋のおかみさんも、気難しげな武器屋の店主から強面の軍人まで、喜んで彼らに菓子を手渡す。
手作りらしいパイやクッキーもあれば、市販品のチョコレートやキャンディなんかもちらほらと見えるが、“お化け”たちはそのどれもを嬉しそうに受け取っていた。
『(こう和やかな雰囲気に街が包まれるというのは、それだけ平和な証拠かな……)』
診療所からぼんやりと外を眺めていると、コンコンとノックが聞こえた。
レイディアは慌ててくわえ煙草の火を消し、ドアを開ける。
するとそこには……
「あ、レイディア、こんにちは」
「えへへ、私たちも仮装してみたんだ、似合うかな?」
狼男に扮したデンゼルと、可愛らしい衣装(赤いケープにフードまで被っているところを見ると、赤ずきんだろうか……)に身を包んだマリンがいた。
『ああ、よく似合ってるな。仮装はティファが?』
デンゼルの頭についた耳をつつきながらレイディアが問うと、うん、とマリンがうなずく。
「でも、衣装はクラウドが買ってきたみたい」
その言葉にレイディアは苦笑した。
なんとなく仮装に張り切るクラウドというのが想像できてしまう。
何せ彼は女装までこなせるプロフェッショナル()なのだ。
随分と仮装がサマになっている二人の姿を写真に収めたあと、さて、レイディアは切り出した。
『二人がここに来た目的はわかっている。
でも、ただでお菓子はわたせないな』
目に見えて動揺する二人に、自分でもまるで悪役のようだ……と思いながら言葉を続ける。
『お菓子が欲しければ合言葉をどうぞ?』
ここまで言うと、二人はパッと顔を輝かせて言った。
「「Trick or Treat!!!」」
『はい、よくできました』
今日のために用意しておいたお菓子をマリンとデンゼルにわたす。
昨晩のうちに作って冷やしておいたカボチャプリンだ。
数が余りそうなので、クラウドとティファにもわたすように余分におまけしておいた。
「ありがとう、レイディア!」
「ちゃんとクラウドとティファにもわたしておくよ」
そう言って嬉しそうに帰っていった背中を見送った後、レイディアは次にくる子供たちを歓迎すべく、診療所のドアを開けた。
開いたドアから吹き込んだ風が甘ったるい香りと秋特有の少し寂しげな冷たさを運んでくる。
だが、ところどころにジャック=オ=ランタンの置かれた街は、いつもより温かに見えた。
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