ヴィンセント誕生日祝い

prrrrrrr……

無機質な着信音とともに震えた機械に、いつもの癖でヴィンセントは身構えた。

数秒ほどで消えることなく鳴り続ける場合は、メールではなく通話の方だったか……。

そんなことを考えながら開けば、液晶に映る"レイディア"の文字。
ヴィンセントは慌てて受話器を傾けたようなマークのボタンを押し、携帯電話を耳に押し当てる。
すると、ほどなくして、躊躇いがちに話す彼女の声が聞こえた。

『……もしもし、ヴィンス?通じてる?』

留守番電話か何かだと思っているのだろう。
電話の向こうの相手の怪訝そうな表情が見えるような気がして、密かに苦笑をこぼす。

「ああ、通じている。久しぶりだな、レイディア」

そう返事してやれば、レイディアは安心したようで、ほっとしたような小さな吐息がマイクに吹き込まれた。

『うん、久しぶり。それと、最近どう?体調を悪くしたり怪我をしたりしてない?』

「問題ない。最近はそう凶暴なモンスターにも出くわしてはいないしな」

気遣うレイディアに、何も心配要らないと伝えると、そうか、とわずかに笑みを含んだ声。

そういえば……、ふと疑問に思ったことを口にする。

「お前が電話をかけてくるのは珍しいな、何か用事でもあったんじゃないのか?」

すると、あーとかうーとか意味をなさない音声が耳元のスピーカーから流れた。

どうやら聞くには時期尚早だったらしい……。

目に見えて(実際は見えていないが)動揺しているらしいレイディア。
だが、ひとしきり唸った後に、不意に静かになる。

「……レイディア……?」

通話が途切れてしまったのかと声をかければ、あのさ……、と頼りなさげな声でレイディアが切り出した。

『今、どの辺りにいるの?』

なんだ、そんなことか。彼女も知っている地名をあげて説明すれば、微かにため息。

『それなら、今日中に帰って来るなんて無理だよな……』

どこか沈んだような声にヴィンセントは首を傾げる。

「今日?何か特別なことでもあったか?」

すると、電話の向こうから、はぁ!?と素っ頓狂な声が上がる。
耳元で叫ばれるほどのインパクトを受けた耳に耳鳴りを覚えつつ、ヴィンセントはレイディアに訊ねる。

「悪いが、本当に覚えがない。今日は何かあるのか?」

大真面目な口調のヴィンセントに、レイディアは、いや……嘘だろ、とぼやいて、彼に告げた。

『誕生日』

「?」

『今日、お前の誕生日だろ、ヴィンス』

言われて初めて気が付いた。

「……そういえば、そうだった」

苦笑交じりに言えば、馬鹿、と笑う彼女。

『本当はさ、ディナーを用意して待っていたかったけど、今から帰っても着くの明後日くらいになるだろ?
だから、また今度、何か作るよ』

「ああ、そうしてくれると嬉しい」

『プレゼントもその時にあげる。
だからさ、今はこれだけ言わせて……


誕生日おめでとう、ヴィンセント


珍しく、彼女にきちんとした名前で呼ばれたせいか、顔に熱が集まる。
しっかり礼を言えたかどうかも覚えてはいないが、ただ、久しぶりに帰ろうという気にはなった。
声を聞いたせいなのか、無性にレイディアに会いたい。
ヴィンセントは切実にそう思った。

通話を終えて以降、沈黙を貫いている携帯電話を懐にしまい、ヴィンセントは、エッジの方向へと足を進め始めた。

[ 12/18 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -