第六話 実力の片鱗
「いたぞ、あそこだ!」
教会奥の階段を昇るレイディアたちの背中に、追跡者たちの声が降りかかる。
「クラウド、レイディア、あれ!」
「ああ、わかってる」
『逃がすつもりはないらしいな』
階段を昇り切った先の通路は、しかし、崩落したときに巻き込まれたのか、崩れてしまっていた。
それなりに跳躍力があれば、ちょうど跳び移れるほどの隙間ではあるが、はたしてエアリスが跳び移れるかどうか……。
そう思っている間に、クラウドがひらりと向こう側へ跳び移るのが見えた。
どうやらエアリスを受け止めようとしているようだが、それでは下から狙ってくれと言っているようなものだ。
レイディアはエアリスを軽々と抱きかかえると、二、三歩後ろに下がった。
そして、だっと駆け出して隙間を跳び越えようとしたのだが……、
――パシュン
神羅兵の撃った銃弾がレイディアの腕を掠め、バランスを崩してしまう。
すぐに体勢を立て直しはしたものの、既に身体は落ち始めていた。
『……チッ……』
小さく舌打ちし、腕の中のエアリスに出来る限り衝撃がいかないように着地する。
「やっちまったかな、と。抵抗するからだぞ、と」
そんな風にどこか得意げに言うレノだが、発砲の指示を間違えたおかげでお前が慌てているのをしっかり見ていたぞ、だなんて、どうでもいいことを思ってレイディアはため息をついた。
だが、こうなった以上、彼らを倒さずして教会から出ることは不可能だろう。
レイディアはエアリスを下すと、奥に逃げるよう指示を出す。
駆け出したエアリスに、神羅兵の一人が銃を構えたのを見ると、レイディアはどこからともなくメスを取り出し、腕を振るった。
すると、神羅兵の持っていた銃の砲身が、アスパラのように容易く切断され、床に転がる。
金属片でしかなくなったそれが床と奏でる軽やかな音に気を取られていたその神羅兵が気づいた時には、脚を振り上げたレイディアの姿が目の前にあり、そのままかかと落としをくらって気絶した。
数秒の内に倒された同僚を見て他の二人の神羅兵は引き金を引き始めるが、恐怖で手が震えるのか、全く当たらない。
『情けないな。お前ら、それでも兵士か?』
地を蹴ってあっという間に距離を詰めると、レイディアは手近な神羅兵の銃を掴みあげて攻撃をそらし、突っ込んだ勢いのままに膝蹴りを腹部に叩き込む。
そして、力の抜けた神羅兵の手から銃を奪うと、残り一人の神羅兵に発砲した。
どうやら手を撃たれたらしい彼は銃を取り落とし、慌てふためく。
しかしすぐにレイディアに手刀を落とされ、意識を刈られてしまった。
ほんの数分で三人の神羅兵が蹴散らされたことに、レノとクラウドは息をのむ。
エアリスは単純に感心している様子だったが、二人は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
(おいおい……俺は夢でも見てるのかよ、と……)
(もし敵にまわしたら厄介どころじゃすまないな……)
そう考える間にも、レイディアは気絶した神羅兵を床に横たえ、レノへと近づく。
『どうした、かかってこないのか?』
――後輩くん?
声を出さずに唇の動きだけで紡がれた言葉にレノは目を見開く。
懐に入れていたロッドを取り出してかまえ、レイディアを警戒した様子でじろじろと見た。
「噂には聞いていたが、まさか本当だとは思わなかったぞ、と。
アンタ、本当は何者だ?」
手を出しあぐねている様子のレノに、レイディアは答える。
『なに、四番街に住むしがない医者さ』
その言葉の直後、レノの頭上から樽が落下し、彼は押しつぶされた。
いきなりの出来事にレイディアも驚くが、天井裏から手を振るエアリスとクラウドが目に入り、二人が樽を落としたことを理解した。
しかし、闘いの邪魔をされたことに納得がいかず、文句を言おうとしたのだが、
「レイディア!こっちだ!」
「早く!応援が向かって来ている!」
その言葉を聞いてはっとしたらしく、奥の階段へと駆けて行った。
―――――
2014/10/31
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