第四話 疑惑のソルジャー1st

そういえば、とでも言うように、エアリスは男の顔を覗き込んだ。

「また会えたね」

きょとんとした表情の男に、エアリスは心配そうに続ける。

「……覚えてないの?」

いや、覚えてるさ。
男はそう返した。

「花を売っていただろう?」

瞬間、エアリスの表情が華やぐ。

「あっ!嬉しいな〜!
 あの時はお花を買ってくれてありがと」

和気藹々と話すエアリスたちの様子にレイディアは目を細めた。
キャッキャッとはしゃいでいたエアリスが、不意に男の手元に目を留める。
腕輪に嵌ったあれはマテリアだろうか。

「ね、マテリア持ってるんだね。
 わたしも持ってるんだ」

そう言って髪飾りを指すエアリス。
だが、男の反応は素っ気ない。

「今はマテリアは珍しくもなんともない」

「私のは特別。
 だって、何の役にも立たないの」

少しだけ残念そうにこぼした言葉に、男は怪訝そうに聞き返した。

「……役に立たない?
 使い方を知らないだけだろ?」

『そんなことはない』

レイディアはそう口を挟んで、自分のブレスレットのマテリアを示した。

『確認のために私が呪文なり召喚なりを試みたが、何も起きなかった。
 恐らく、特別な条件を必要とするのかもな』

そう言って肩をすくめたレイディアに、エアリスはしきりに頷いた。

「うん、役に立たなくていいの。
 身に着けると安心できるし、お母さんが残してくれたから……」

エアリスは寂しそうな表情でそう言ったものの、すぐに笑顔を取り戻し、

「ね、いろいろ、お話したいんだけど、どうかな?
 せっかくこうして会えたんだし……ね?」

と、男の手を取った。

「あぁ、構わない」

「じゃ、待ってて。
 お花の手入れ、すぐ終わるから」

そう言って花の方へ行くエアリスの背中を見送りながら、レイディアは男に尋ねた。

『お前、階級(クラス)は何だ?』

男は、ぽかんとしたような表情をした。

『お前、ソルジャーだろう?』

呆れたように聞けば、男は、1stだ、と即答する。

ふーん、とどこか適当な返事をしながらレイディアは男をじろじろと眺めまわした。

目は魔晄のかかったブルー。
……ならばソルジャーであることは間違いないだろう。

紫がかった紺のノースリーブのニットと動きを制限しないようなだぼっとした軍用ズボン。
……これは確かソルジャー2ndのカラーのはずだ。

左肩にはめているボルトの飛び出した傷だらけの肩当て。
……レイディアの記憶が確かならば、ボルトが飛び出しているのは旧デザインで、しかも、2ndには、まだ、服装の自由が認められていないため、両肩にはめなければならないはず。

腰元や肩に通っているベルト、そして、支給品の軍用ブーツ……は規定通りにしているようだが……。

どうも、姿を見ているかぎりでは、レイディアには“ソルジャー1st”という素性が胡散臭く思えた。

じろじろ見られて居心地が悪いのだろう、男はしばしば身じろぎをしていたが、エアリスが戻って来たのを見て、安堵したように肩の力を抜いたようだった。

そういえばまだだった……。

そんなことを呟くエアリスに、どうした?、とレイディアが声をかけると、

「まだ、お互いの名前、知らなかったの」

なんて答えられて、思わず苦笑した。

「わたし、花売りのエアリス。よろしくね」

にこりと笑ったエアリスとは反対に、

『私はレイディア=サングィルーネ。
 スラムで医者をしている』

どこか憮然とした態度でレイディアは名乗った。
すると男は、

「俺はクラウドだ」

と名乗り、仕事は……、と言葉を切って考えこむ。

『(やはりソルジャーだとは名乗りにくいのか、あるいは……)』

そう思考を巡らせていたレイディアの思考とは裏腹に、男……クラウドは

「仕事は"何でも屋"だ」

あっさりと"何でも屋"という、奇妙な職業をあげた。

「はぁ……何でも屋さん」

『……(そこは万事屋とか言うべきだろう)』

なんとなく失笑気味の二人に、クラウドは憤慨した。

「何でもやるのさ。
 ……何がおかしい!どうして笑う!」

どこか必死な様子に、レイディアとエアリスは顔を見合わせて吹き出した。

『ふっ……くくく……何でも屋って……』

「ごめんなさい……でも、ね」

そうして、続けようとしたエアリスの言葉を遮るように、教会の扉が乱暴に開け放たれた。

[ 7/18 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -