第三話 落下物の正体
――ドンガラガッシャーン
上から何かが瓦礫を巻き込み、落下した。
その衝撃で舞い上がった埃が光を乱反射して視界を遮る。
「いたたたた……。
もう、レイディアったら、いきなり何するの!」
突然後ろに突き飛ばされたエアリスが文句を垂れながらレイディアのところへやって来る。
だが、レイディアは何も答えず、ある程度埃の収まったそこへ目を向けた。
そこにあったのは……
『おや、人間か』
紺色の制服――それも、ソルジャーのものだ――に身を包んだ男の姿だった。
レイディアは男のそばに屈みこみ、手早く脳の損傷や骨折箇所の有無を調べる。
幸いにも、この男の場合は屋根がクッションになってくれたのか、そう言った傷は見当たらず、あっても打撲傷や擦過傷くらいだ。
そのことにレイディアは安堵したが、あっとこぼしたエアリスの声に、背後を振り返った。
「この人……」
『知り合いか?』
尋ねれば、うん、とエアリスは頷いた。
「昨日、壱番街でお花を買ってくれたの」
その言葉にレイディアは呆れかえった。
壱番街といえば、ちょうど昨日、テロが発生した地域ではないか。
『エアリス……危ないところには近づくなといつも言っているだろう?』
言葉に棘を含ませて、そう言うものの、エアリスに反省の色は無い。
「でも、この人、良い人よ。
ちゃんと、危ないから逃げろって言ってくれたもん」
『……それって……
(こいつがアバランチの構成員って言っているようなもんじゃないのか……)』
何故神羅のソルジャーがテロに加担しているのかは分からないが、そんなことを言えるのはメンバーくらいのものだろう。
『(まぁ、考えたところで詮方ないことか……)』
レイディアはため息をこぼすと、男を長椅子の一つへ移動させた。
抱え上げた男の身体は、確かに鍛え上げられていることがよく分かるが、どうも、"彼ら"に比べたらまだまだ軽く感じられた。
『(この筋肉の付き方……ソルジャー3rd、いや、せいぜい一般兵に毛が生えた程度か……)』
静かに考察し、レイディアは回復マテリアをつけた腕輪をはめた。
しかし、
「いいよ、レイディア。わたしがやる」
そう言ってエアリスが男のそばにかがんだ。
そして、男の身体に手をかざすと、回復魔法を発動させる。
あっという間に塞がる傷口。
エアリスは傷が消えたのを確認すると、
「こんなもんだね」
とスカートの埃を払い落した。
「どう?上手く治せてるかな?」
振り向き、首を傾げたエアリスに、レイディアはそっと彼女越しに男の容態を観察する。
エアリスのおかげで目立つ傷はすべて治療されており、意識はまだ戻らないようだが、呼吸はしているので、間もなく目を覚ますだろう。
そのことを伝えるや否や、
「……や、て……ぅ……」
男が何かを口にし、身じろぎした。
「あっ!動いた!」
エアリスははしゃぎながら男の顔を覗き込む。
しかし、ぼんやりとした男の視線は定まらないままだ。
「もしもし?」
思わず尋ねるエアリス。
だが、男は依然、ぼんやりした、何かをぶつぶつ呟いている。
それに我慢ならなかったのか、エアリスは深く息を吸い込んだ。
そして、
「もしも〜し!」
男の耳元で叫んだ。
尋ねたのではない、叫んだのだ。
これにはさすがに男も応えたのか、片耳を押さえながらこちらを振り向いた。
大丈夫?、エアリスは心配そうな声で言うものの、表情は、悪戯を成功させた子供のそれだ。
「ここ、スラムの教会、伍番街よ。
いきなり落ちてくるんだもん。
驚いちゃった」
その言葉に、……落ちてきた?と男がオウム返しに繰り返す。
『どうやら屋根と花畑がクッションとして作用してくれたらしいな』
運のいいことだ……、と言って頭上の穴を見上げたレイディアに、花畑……、とつぶやいて男は尋ねる。
「あんたの花畑?」
いや、と答えたレイディアの言葉尻をつかまえてエアリスが続けた。
「わたしの花畑だよ」
男は起き上がり、エアリスと視線を合わせた。
その顔はどこか申し訳なさげだ。
「それは悪かったな」
謝罪の言葉を口にした男に、エアリスはとんでもない、と首を横に振った。
「気にしないで。
お花、けっこう強いし、ここ特別な場所だから。
ミッドガルって、草や花、あまり育たないでしょ?」
エアリスの言葉に男は頷く。
エアリスはふわりと笑みを浮かべて続けた。
「でも、ここだけ、花、咲くの。
好きなんだ、ここ」
ふふふ、と笑って、花畑を指し示す彼女のどこか微笑ましい姿に、男は目を細めた。
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