第二話 スラム街に咲く花

『ああ、良い天気だな、多分』

そう呟いてレイディアは頭上を見上げた。
しかし、無機質な建造物、プレートに覆われた空はただただ灰色。
天気すらまともに分かりはしない。

この人口大地の上にも人は住んでいるが、おおよそが神羅の社員だ。
しかも、彼らの働く会社がエネルギーと称して供給している魔晄は、突き詰めれば、この星の命そのもの。
結局は自分の首を自分で絞めているに過ぎない。
それゆえ、レイディアは神羅カンパニーに良い印象を抱いていなかった。

そのうえ、神羅カンパニーには、いろいろと良くない噂は多い。
例えば、秘密裏に酷い人体実験を行っている、とか、海洋や大気中に有害な物質を垂れ流しにしている、とか、
また、証拠隠滅のために村をまるごと一つ滅ぼした……など、その類いの話題が尽きない。

だが、そういった噂が真実といっても過言ではないことを、レイディアは知っていた。
レイディアとて、伊達に30年近くミッドガルに住まいを構えているわけではないのだ。

伍番街へ踏み込んだレイディアの眼前に教会が見えてきた。
すっかり古びており、屋根に穴まで空いてはいるが、なかなかに立派な教会だ。

今日もエアリスは来ているかな。

レイディアはふと知り合いの少女のことを思い浮かべた。
彼女とは10年以上の付き合いがあり、互いの家を行き来するほどの仲だ。
恐らく伍番魔晄炉の爆破は夜に行うと予想しているので、そう急ぐ道中でもない。

そのため、レイディアは教会へ立ち寄ることにした。

――ギィッ

立て付けの悪い扉を開けると、むせかえるような土と緑の香り。
見れば、教会の床板が外れて丸く土が露出した部分に百合に似た花が群生している。

そして、その花のそばにしゃがみこんでいる少女にレイディアは声をかけた。

『エアリス』

すると少女は驚いたように顔を上げ、レイディアの姿を見るなり、笑顔を浮かべ、

「レイディア!」

そう嬉しそうに名を呼んでレイディアの胸に飛び込んだ。

「ここに来るなんて、珍しいね。
いったい、どうか、したの?」

少しばかり興奮したようすのエアリスに、レイディアは微笑み返す。

『ちょうどこのあたりに用が出来たから、エアリスの顔を見て行こうと思ってね』

するとエアリスは、用事かぁ……と呟き、何か考えるような素振りを見せ、くるりとレイディアを振り返った。

「もしかして、また危ないこと?」

抽象的ではあるが、的を射た言葉に、レイディアは、バレたか……、と頭をかいた。

『どうやらアバランチの次の標的が伍番魔晄炉らしくてね。
上はまだしも、スラムには頼れる医師がいないだろう?』

「あ、確かにそうだね」

そう言って笑顔をこぼすエアリスにつられてレイディアも笑う。

教会に落ちる光は柔らかで、とても、テロなんて起こるような雰囲気ではなかった。

レイディアは、エアリスと一緒に花の傍にしゃがみ、エアリスが手入れをする様子を眺める。

枯れた花弁や葉を取り除きながらエアリスは呟いた。

「もし、レイディアがミッドガルからいなくなっちゃったら、誰がスラムの人を治してくれるんだろうね」

実際、スラムには、レイディアの他にも医師はいるのだが、その多くが闇医者であったり、偏った診療科しか担当していなかったりで、安定的に通えるところは少ないというのは事実。

レイディアとしても、医師不足の事態は避けたいものだが、まさかの事態もあり得る。

だが、

『心配しなくていいよ、エアリス』

レイディアはエアリスの頭をぽんぽんと撫でた。

『私がいなくなっても、ちゃんとした医者が来てくれるさ』

その言葉通り、レイディアは、ミッドガルから去るときは、知り合いの医師の弟子に住まいを譲ることにしていた。

「なら、いいんだけど……」

そう呟いたエアリスに、ああ、と生返事したレイディアが上を見上げた時、
不意に、二人の頭上に影がさした。

「え?何?」

『危ない!エアリス!』

レイディアはとっさにエアリスを教会の奥へ突き飛ばした。

「きゃっ!?」

悲鳴が聞こえたが、崩落する天井に巻き込まれるよりマシだろう。

直後、

――ドンガラガッシャーン

上から何かが崩れ落ちる瓦礫を巻き込み落下した。

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