第一話 悪夢の残滓

彼女は真白な闇の中にいた。

何をするでもなく、ただ、立ち尽くしていた。

その周りを幾つもの人影が取り囲んでいる。

一人は、ソルジャー1stの制服をきっちりと着こなし、バスターソード背負った男。

一人は、赤いコートを翻らせ、片手にレイピアを、もう片方の手に叙事詩を持つ男。

一人は、尊敬する者と同じ衣装を纏い、その剣を受け継いだ、空色の瞳を持つ男。

一人は、黒いコートを羽織り、腰に長刀を差した、白銀の長髪を靡かせた男。

一人は、白衣を纏い、亜麻色の髪を、目にも鮮やかな黄色の布で高く結い上げた女。

そして、最後の一人は、夜闇色のスーツを纏う、鮮血のような紅い瞳を持つ男だった。

『……』

彼女は無言でその面々を見回す。

たとえ、記憶の断片が見せる幻だとしても、無感情になれないのは、彼女の優しさゆえか、それとも、彼女がそれほどに罪深いがゆえなのか。
けれど確かに、彼らの目に宿るのは、怨嗟や軽蔑、さまざまな負の感情、それも自分に向けられたものだと彼女は確信している。

『そうだよ、私が悪いんだ』

彼女はそう漏らして地面に座り込んだ。

『私を怨んで、当然なんだ。
……そう、怨んで、当然なんだ』

彼女が吐露する間にも、彼らは彼女ににじり寄る。

そして、口々に何かを言い始めた。

「どうして俺たちを助けてくれなかったんだ……」

「どうして俺に本当のことを教えてくれなかったんだ?」

「どうして私を引き止めてくれなかったの?」

「どうして……私のことを受け入れてくれなかったんだ」

「どうして」
「どうして」
「どうして」
「どうして……」
「どうして……?」
「どうして……ッ!!」

それぞれの口から吐き出される怨み言に彼女は項垂れる。

『あぁ、そうさ。
これが、……私の罪』

そう呟いた彼女に向かって剣が、刀が、銃口が向けられる。

そして、……





『……!!?』

声にならない悲鳴をあげ、レイディアは飛び起きた。
うなじから背中にかけて気持ち悪い汗が流れている。

『ハハッ……随分とまた、懐かしい夢じゃないか』

虚勢を張って、自嘲的に笑ってみるものの、微かに体が震えているのがわかった。
どうにか心を落ち着けるため、サイドテーブルの煙草に手を伸ばす。
深く肩で吸い込めば、脳を侵すニコチンの快感。
はぁ、と白い煙を吐いて、漸く震えが収まったことに安堵する。
壁の時計を見やれば、針は未だ起床時間とは程遠い時刻を差していた。

『仕事には……まだ早過ぎるな』

だが、また寝てしまうことも出来ない。
仕方なくレイディアはベッドから起き上がった。
そして、汗に濡れてしまった服を着替え、シーツを洗濯機に放り込み、いつも通りコーヒーメーカーを起動させる。

まぁ、普段はもっと遅いのだが……。

それにしても、嫌な夢を見たものだ。
コーヒーのドリップを待ちながらそう思う。

居間のテレビは、昨晩の壱番魔晄炉爆破事件に関する報道を流しており、その犯人であるテロ組織、アバランチは、次なる標的を伍番魔晄炉に定めたという。

『……伍番街か』

ある程度の怪我人を見込まなければならないだろうな。
そう呟いて、レイディアは自宅に隣接する診療所へ足を踏み入れた。
彼女の診療所は、小規模ながらもそれなりに設備が整っており、ごく少人数ならば入院も可能だ。
昨今ではマテリアを用いた魔法による治癒が可能だとはいえ、レイディアの診療所は評判が高く、あの神羅カンパニーお抱えの病院からも、何度かヘッドハンティングが来ていた。

もっとも、彼女は全て断っていたが。

レイディアは、デスクの上に装備を広げると、必要性の高い薬品と手術道具を詰め込んだ。
そして回復系のマテリアを強弱あわせて複数個、得物に嵌めたところで、キッチンから芳ばしい香りが漂う。
ちょうど良いとばかりにレイディアはポーチをぱちりと閉じると、ドリップしたてのコーヒーを口に含んだ。
その苦い液体を舌の上で転がしつつ、自分の出来ることを考える。
そして、ある程度のプランが出来上がったところで、カップをキッチンに戻し、自宅を後にした。


―――――――
つじつまの合わないとこが出て来たので少し手直ししました。
2015/4/5

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